2025年10月31日金曜日

偏愛メモ アポロドーロス『ギリシア神話』高津春繁訳

P004まえがき/ 006/ 008/ 010/ 012
P014目次/ 016
第一巻 P18-66
P018
第一~六章 神々について
第七~九章 デウカリオーンの後裔
P020  天空ウーラノスが最初に全世界を支配した。大地ゲーを娶って先ず「百手巨人ヘカトンケイル」と呼ばれるブリアレオース、ギュエース、コットスを生んだ。その大きさと力は比類なく、おのおの一百の手と五十の頭をもっていた。

これらの巨人の後に大地ゲーは彼にキュクロープスたち、すなわちアルゲース、ステロペース、ブロンテースを生んだ。そのおのおのは額に一眼をもっていた。しかし天空ウーラノスは彼らを縛してタルタロスへと投げ込んだ。

これは地獄の中の暗陰な、大地と空との距離だけ大地より離れている所である。さらに彼は大地ゲーによってティーターン族と呼ばれる子供たち、すなわちオーケノアス、コイオス、ヒュペリーオーン、クレイオス、イーアペトス、および末弟クロノスを、またティーターニス1と呼ばれる娘たち、すなわちテーテュース、レアー、テミス(=「法」)、ムネーモシュネー(=「記憶」)、ポイベー、ディオーネー2、テイアーを生んだ。

大地はタルタロスに投げ込まれた子供たちの破滅に心平かならず、ティーターンたちにその父を襲うように説き、クロノスに金剛の斧を与えた。彼らはオーケアノス以外は父を襲った。

そしてクロノスは父の生殖器を切り放ち、海に投じた。流れる血の滴りより復讐女神(エリーニュエス)アレークトー、ティーシポネー、メガイラが生まれた。父の支配権を簒奪し、タルタロスに投入せられた兄弟を連れ戻し、クロノスに支配権を委ねた。

P022 しかし彼は再び彼らを縛してタルタロスに幽閉し、姉妹のレアーを妻とした。大地ゲーと天空ウーラノスとが彼に予言して、自分の子によって支配権を奪われるであろうと言ったので、彼は生れた子供たちを呑み込むを常としていた。

まず最初に生まれたヘスティアーを吞み、ついでデーメーテールとヘーラー、その後プルートーンとポセイドーンとを呑み込んだ。これに怒ってレアーはゼウスを孕んだ時にクレータに赴き、ディクテーの洞穴でゼウスを生んだ。

そしてクーレースたちおよびメリッセウスの娘でニムフなるアドラーステイアーとイーデーにその子を育てるように与えた。そこで彼女たちはアマルテイアの乳で子供を養い、クーレースたちは武装して洞穴中で嬰児を守りつつ、クロノスが子供の声を聞かないように、槍を以て盾を打ち鳴らした。

レアーは石を襁褓むつきにくるんで生まれた子供のごとくに見せかけ、クロノスに呑み込むようにと与えた。

 ゼウスが成年に達するやオーケアノスの娘メーティス(=「智」)を協力者とした。彼女はクロノスに薬を呑むように与えた。薬の力で彼は先ず石を、ついで吞み込んだ子供らを吐き出した。

彼らとともにゼウスはクロノスとティーターンたちと戦さを交えた。十年の戦闘の後大地ゲーはゼウスにタルタロスに投げ込まれた者たちを味方にしたならば勝利を得るであろうと予言した。彼は彼らの番をしているカムペーを殺してその縛を解いた。

P21そこでキュクロープスたちはゼウスには電光と雷霆を、プルートーンには帽子を、ポセイドーンには三叉の戟を与えた。神々はこれらの武具を身をよろい、ティーターン族を征服してタルタロスに幽閉し、百手巨人どもを牢番にした。

しかし彼ら自身は支配権に関して籤を引き、ゼウスは天空を、ポセイドーンは海洋を、プルートーンは冥府の支配権の割当てを得た。

ティーターンたちに子供が生まれた。オーケノアスはテーテュースから【三千人の3】大洋の娘オーケアニテス、すなわちアシアー、ステュクス、エーレクトラー、ドーリス、エウリュノメー、【アムピトリーテー4】、メーティスが、コイオスとポイベーからアステリアーとレートーが、ヒュペリーオーンとテイアーから曙エーオース、太陽ヘーリオス、月セレーネー、クレイオスとポントス(=「海洋」)の娘エウリュビアーからアストライオス、パラース、ペルセースが、イーアペトスとアシアーから蒼穹を両肩に支えているアトラース、プロメーテウス、エピメーテウスおよびティーターン族との戦闘においてゼウスが雷霆を以て撃ちタルタロスへと投入したメノイティオスが生まれた。

またクロノスとピリュラーから半人半獣のケンタウロスなるケイローンが、曙エーオースとアストライオスから風と星が、ペルセースとアステリアーからヘカテーが、パラースとステュクスから勝利ニーケー、支配クラトス、競争心ゼーロス、暴力ビアーが生れた。

そしてゼウスは

P024 誓言を、冥府のある岩から流れ出ているステュクスの水によって誓わしめることとした。彼はステュクスがその子供らとともに彼の味方をしてティーターン族と戦った酬いとしてこの名誉を彼女に与えたのである。

大洋ポントスと大地ゲーからポルコス、タウマース、ネーレウス、エウリュビアー、ケートーが生まれた。そしてタウマースとエーレクトラーから虹イーリスおよびハルピュイアのアーエロー[と]オーキュペテーが、ポルコスとケートーからポルキデス(=「ポルコスの娘」)およびゴルゴーンたち---これについてはペルセウスの物語のときに話すであろう---が、ネーレウスとドーリスからネーレーイデス(=「ネーレウスの娘」)が生まれた。

ネーレーイデスの名は、キューモトエー、スペイオー、グラウコノエー、ナウシトエー、ハリエー、エラトー、サオー、アムピトリーテー、エウニーケー、テティス、エウリメネー、アガウエー、エウドーレー、ドートー、ペルーサ、ガラテイア、アクタイエー、ポントメドゥーサ、ヒッポトエー、リューシアナッサ、キューモー、エーイオネー、ハリメーデー、プレークサウレー、エウクランテー、プロートー、カリュプソー、パノペー、クラントー、ネオメーリス、ヒッポノエー、イーアネイラ、ポリュメノー、アウトノエー、メリテー、ディオーネー、ネーサイエー、デーロー、エウアゴレー、フサマテー、エウモルペー、イオネー、デュナメネー、ケートー、リムノーレイアである。

P23  ゼウスはヘーラーを娶って、へーべー、エイレイテュイア、アレースを生んだが、多くの神と人の子の女と交わった。天空ウーラノスの娘テミスより娘の季節ホーライの女神5すなわち平和エイレーネー、秩序エウノミアー、正義デイケーを生み、またクロートー、ラケシス、アトロポスの運命モイライの女神たちを得、ディオーネーよりはアプロディーテーを、オーケアノスの娘エウリュノメーより優雅女神(カリテス)アグライエー、エウプロシュネー、タレイアを、ステュクスよりペルセポネーを、ムネーモシュネー(=「記憶」)より先ず最初にカリオペー、次いでクレイオー、メルポメネー、エウテルペー、エラトー、テルプシコレー、ウーラニア、タレイア、ポリュヒュムニアーのムーサたち(=「芸術の女神」)を得た。

カリオペーとオイアグロスから、しかし名義上はアポローンから、ヘーラクレースが殺したリノスおよび歌によって木石を動かした吟唱詩人オルペウスが生まれた。オルペウスはその妻エウリュディケーが蛇に噛まれて亡くなった時に、彼女を連れ戻そうと思って冥府に降り、彼女を地上にかえすようにとプルートーンを説き伏せた。

プルートーンはオルペウスが自分の家に着くまで途上で後を振り返らないという条件で、そうしようと約束した。しかし、彼は約を破って振り返り、妻を眺めたので、彼女は再び帰ってしまった(tw)。

P024 オルペウスはまたディオニューソスの秘教ミュステーリアを発見し、狂乱女マイナデスたち6に引き裂かれてピエリアーに葬られた。

クレイオーはアプロディーテーの怒りにふれ---というのは女神のアドーニスに対する恋を非難したからである---マグネースの子ピエロスに恋して彼と会し、彼によって一子ヒュアキントスを得た。

ピラモーンとニムフのアルギオペーの息子であるタミュリスが彼に恋し、彼が男性を愛する魁さきがけとなった。しかし後アポローンの恋人となっていた折に神は円盤を投げて誤ってヒュアキントスを殺した。

その美貌と吟唱の技にかけて人にすぐれていたタミュリスはムーサ女神たちと歌の技の競いをした。その条件は、もし彼が勝利を得れば彼女らをすべてわがものとする、これに反して敗れた場合には彼女たちの欲するものをなんなりと奪われるというのであった。

ムーサたちが勝利を得て、彼の両眼とその吟唱の技とを奪った。エウテルペーとストリューモーン河からトロイアーにおいてディオメーデースが殪たおしたレーソスが生まれた。しかし一説によれば彼の母はカリオペーであるという。

タレイアとアポローンとによりコリュバースたちが、メルポメネーとアケローオスからセイレーンたちが生まれた。彼女らに関してはオデュセウスの条下で話すであろう。

ヘーラーは男と臥床ふしどをともにすることをなくしてヘーパイストスを生んだ。

P25しかしホメーロスの言うところによればこの神もまたゼウスより生まれた。ゼウスは縛められたヘーラーを救いに来たというので彼を天空より投じた。ヘーラクレースがトロイアーを陥れたのち航海の途上にあった時に風を吹き送ったというので、ゼウスは女神をオリュムポスから吊るしたからである。レームノス島に落ちて跛になったヘーパイストスをテティスが救った。

ゼウスは、彼が近づくのを避けるためにいろいろの形に身を変じたメーティスと交わった。彼女が孕むや時を逸せず呑みこんだ。大地ゲーがメーティスが彼女から生まれんとする娘の後に一人の男の子を生み、その子は天空ウーラノスの支配者となるであろうと言ったからである。

これを懼れて彼女を呑み下したのである。誕生の時がきた時に、プロメーテウスが、あるいは一説によればヘーパイストスが、ゼウスの額を斧で撃ち、その顱頂ろちょうよりアテーナーがトリートーン河の岸辺に武装して飛び出した。

 コイオスの娘たちの中で、アステリアーはゼウスと交わるのを厭って身を鶉に変じ海に投身した。そして前には彼女の名を取ってアステリアーと呼ばれていた市が後にデーロスと呼ばれた。

ゼウスと交わったレートーはヘーラーによって大地のあらゆる所において追い立てられ、遂にデーロスに来たって先ずアルテミスを生み、彼女を産婆としてアポローンを生んだ(ヒュギーヌス『ギリシア神話集』相互参照)。

P026
アルテミスは狩猟を事とし、処女として身を持し、アポローンはゼウスとヒュブリス7の子パーンより予言の技を学び、デルポイに来た。その当時はテミスが神託を与えていた。

神託を守護していた蛇のピュートーンが彼が地の裂け目8に近づくのを遮った時、これを退治し、神託をわがものとした。暫く後に彼はティテュオスをも殺した。彼はゼウスとオルコメノスの娘エラレーの息子であった。

ゼウスは彼女と交わった後ヘーラーを懼れて彼女を地下に隠し、その腹の中にあった巨大な身体の子供ティテュオスを光明の世界に連れて来たのである。彼はピュートー(=「デルポイ」を指す)に来たレートーを見て、情欲にかられて彼女を引き寄せた。

しかし彼女は子供たちに助けを求めて呼び、彼らはティテュオスを射殪たおした。彼は死後も罰を受けた。というのは兀鷹はげたかがその心臓を地獄において食っているからである。

アポローンはまたオリュムポスの子マルシュアースを殺した。彼は、アテーナーが顔を醜くするというので投げ捨てた笛を見つけて、アポローンと音楽上の争いをしたからである。

勝者が敗者を思うがままに処分するという条件に同意した後、勝負が行われるやアポローンは竪琴を逆ににして競技に加わり、マルシュアースに同じようにすることを命じた。彼にはできなかったので、アポローンが勝者と判定された。彼はマルシュアースを一本の高い松の木に吊るして、その皮を剥いで殺した(ヒュギーヌス『ギリシア神話集』相互参照)。

P027(ヒュギーヌス『ギリシア神話集』相互参照、ブルフィンチ『ギリシャ・ローマ神話』相互参照
デーロスにおいてアルテミスはオーリーオーン(参照)を殺した。人は彼が大地より生まれ、その身体は巨大であったと言っているが、ペレキューデース9は彼をポセイドーンとエウリュアレーの子であると言う。

ポセイドーンは彼に海上を闊歩する力を授けた。彼は[先ず]ヘーラーが美しさを女神と競ったという廉で地獄に投げ込んだシーデーを妻とした。その後キオスに行ってオイノピオーンの娘メロペーに求婚した。

しかしオイノピオーンは彼を酔わせ、眠っている間に彼を盲目にとし、海辺に棄てた。しかし彼は[ヘーパイトスの]鍛冶場に行き、一人の子供を奪って肩に乗せ、太陽の昇る方向に導くように命じた。

そこに到着して太陽の光線によって治療せられて視力を回復し、大至急でオイノピオーンにむかって道を急いだ。しかしポセイドーンが彼のためにヘーパイストスによって造られた家を地下に用意せしめた。

曙(エーオース)がオーリーオーンに恋して彼を掠い、デーロスに連れて来た。というのは曙(エーオース)がアレースと床をともにしたというので、アプロディーテーが彼女を絶間なく恋に身を焼くようにしたからである。

オーリーオーンは、一部の人々はアルテミスに円盤投げの競技を挑んだために滅ぼされたと言い、またある人々はヒュペルボレイア人の所より来ていた乙女の一人オーピスに暴力を以て犯したためにアルテミスに射られたのであると言っている。

P028 ポセイドーンは[オーケアノスの娘]アムピトリーテー10を妻とした。そして彼にトリートーン、および太陽(ヘーリオス)が妻としたロデーが生まれた。
(略)
P030
(略)
神々が巨人たちを征した時、大地はさらに怒ってタルタロスと交わり、キリキアーにおいて人と獣との混合体であるテューポーンを生んだ。彼はその大きさと力において大地が生んだすべてのものに優り、腿までは人の形であり、とほうもなく大きかったから、すべての山よりも高く、頭はしばしば星を摩した。彼の手は一方は延ばすと西に、他方は東にとどき、百の竜の頭がそこから出ていた。

腿から下の部分は巨大な毒蛇のとぐろを巻いた形になっていて、それを延ばすと自分の頭に達し、シュウシュウと大音を発していた。

P032 彼の全身には羽が生え、頭と頤からは乱髪が風になびき、眼より火を放っていた。テューポーンはこのようであり、このように大きく、火のついた岩を投げつつ、シュウシュウと音を立て、叫びながら、天そのものへと突進した、口からは烈火を噴き出した。

神々は彼が天にむかって突進してくるのを見て、エジプトに逃げ、追いかけられて姿を動物に変えた。ゼウスは遠方からは雷霆でもってテューポーンを撃ち、近づいては金剛の鎌で打ち殪たおし、遁げるをカシオス山まで追って行った。この山はシリアに聳えている。そこで傷手を負っているのを見て組み合った。

テューポーンはとぐろを巻いてゼウスをしっかとつかみ、鎌を奪って手と足をの腱を切り取り、両肩に載せて海を越えて彼をキリキアーに運び、着いてからコーリュキオンの岩穴中に押し籠めた。同じく腱ををも熊の皮に隠してそこにしまい込み、番人として竜女デルピュネーをおいた。

この娘は半獣であった。しかしヘルメースとアイギバーンとが腱を盗み出し、ゼウスに密かにつけた。ゼウスは再び自分の本来の力を得て、空より翼のある馬にひかれた戦車に駕してとつぜん雷霆をを以て撃ちつつニューサと呼ばれる山までテューポーンを追った。

そこで運命の女神たちが追われる彼をあざむいた。さらに強くなるであろうという言葉を信じて無常の果実を食ったからである。それで再び追跡せられてトラーキアの地に来たり、ハイモス山で戦闘中にその全山脈を持ち上げた。

P033しかし山が雷霆に撃たれて再び彼の上に押しつけられたので、山上に多量の血が迸り出た。この故事よりこの山はハイモスと名づけられたのであると言うことである。シシリ海を越えて遁走し始めた時に、ゼウスがシシリのエトナ山を彼の上に投げつけてた。

これは巨大な山であって、その時より今日にいたるまで投げられた雷霆より火が噴きあがっているのであるということである。しかしこの話はこれで終わるとしよう。

 プロメーテウスは水と土から人間を象り、ゼウスに秘して巨回香の茎の中に火を隠して彼らに与えた。ゼウスがそれを知った時に、ヘーパイストスに彼の身体をカウカサス山に釘づけするように命じた。

これはスキュティアの山である。この山に釘づけにされてプロメーテウスは幾年もの間縛られていた。毎日鷲が空から彼のところへ舞い下りて来てて肝葉を啖った。それは夜の間に生えるのであった。

かくして我々がヘーラクレースの条下で明らかにするように(相互参照)、ヘーラクレースが彼を解き放つまでプロメーテウスは火を盗んだ罪をこのようにして贖ったのである。

プロメーテウスに一子デウカリオーンが生れた。彼はプティーアー付近の地に君臨して、エピメーテウスとパンドーラーの娘ピュラーを娶った。パンドーラーは神々が象った最初の女である。ゼウスが青銅時代の人間を滅ぼそうとした時に、プロメーテウスの言(ブルフィンチ『ギリシャ・ローマ神話』へ相互参照

第二巻 P68-125
P068
第一~八章 イーナコスの後裔
 デウカリオーンの族について述べつくしたから、続いてイーナコスの族について語ろう。

 オーケアノスとテーテュースに、アルゴスにある河イーナコスにその名を与えたイーナコスが生まれた。彼とオーケアノスの娘メリアーとに息子ポローネウスとアイギアレウスが生まれた。アイギアレウスは子供がなくて死に、その地全体はアイギアレイアと呼ばれたが、ポローネウスは後にペロポネーソスと呼ばれた全土を支配して、ニムフのテーレディケーからアーピスとニオベーとを生んだ。(ヒュギーヌス『ギリシア神話集』相互参照

アーピスは自己の権力を僭主制に変じ暴戻な僭主であって、ペロポネーソスを自分の名をとってアーピアーと名づけたが、テルクシオーンとテルキースとの陰謀によって殺害されて、子供なくして死に、神と考えられてサラーピスと呼ばれた43

ニオベー---彼女はゼウスが人間の女と交わった最初の女であるが--とゼウスとに息子のアルゴスおよび、アクーシラーオス44の言うところによれば、ペラスゴスも生まれ、彼の名よりペロポネーソスの住民はペラスゴイと呼ばれたのであると、。

ヘーシオドスは、しかしペラスゴスは大地より生まれたと言っている。彼に関してはしかし、再び述べるであろう45。アルゴスは王国を得て、ストリューモーンとネアイラの娘エウアドネーを妻として、エクバソス、ペイラース、

P070 エピダウロス、クリーアソスを生んだ。クリーアソスは王国をも継承したのである。

 エクバソスにアゲーノールが生まれ、彼より普見者パノプテースと言われるアルゴスが生まれた。彼は全身に眼があり、力並びなく、アルカディアーを悩ましていた牝牛を退治してその皮を身に纏い、またアルカディアー人に害を加えその家畜を奪うサテュロスと対抗して彼を殺した。

彼はまたタルタロスと大地の娘で、通行人を掠っていたエキドナの眠っているところをねらって殺したとも言われている。彼はさらに犯人どもを殺してアーピスの殺害の復讐をした。

 アルゴスとアーソーポスの娘イスメーネーに一子イーアソスが生まれた。イーオーはイーアソスの娘であると言われている。しかし年代記作家カストールおよび悲劇詩人の多くはイーオーはイーナコスの娘であると言っており、ヘーシオドスとアクーシラーオスとは彼女をペイレーンの娘であると言う。

ゼウスは、ヘーラーの祭官の職にあった彼女を犯した。ヘーラーに発見されてゼウスは、ヘーラーは少女に触れて白色の牝牛に変じ、彼女と交わったことはないと誓った。それゆえにヘーシオドスは恋の誓いは神の怒りを招来しないと言っているのである。

ヘーラーはゼウスから牝牛を乞いうけて、その番人に普見者パノプテース・アルゴスを任じた。ペレキューデースは彼をアレストールの子であると言い、アスクレーピアデース46

P71イーナコスの、ケルコープス47はアルゴスとアーソーポスの娘イスメーネーの子であると言っているが、アクーシラーオスは彼を大地より生まれたと言う。彼は牝牛をミュケーナイの森の中にある一本のオリーヴの樹につないだ。ゼウスがヘルメースに牝牛を盗むようにと命じたが、ヒエラクスが漏らしてしまったので、知られずにやることができず、石を投げてアルゴスを殺した。これが彼が「アルゴスの殺戮者」(Argeiphontes)と呼ばれるゆえんである。

そこでヘーラーは牝牛に虻を送り、牝牛は先ずその名よりイーオニア湾と呼ばれる所に来、ついでイリュリアーを通過し、ハイモス山を越えその当時トラーキア海峡と呼ばれていたが、今は彼女によってボスポロス(⁼「牝牛の渡し」)と呼ばれる海峡を渡った。

スキュティアーとキメリアーの地に赴き、広大な地域をさまよい、ヨウロッパとアジアの広い海を泳ぎ渡って、ついにエジプトに至り、そこで元の姿にかえって、ナイル河辺において一子エパポスを生んだ。

しかしヘーラーはクーレースたちに彼をどこかにやってしまうことを乞い、彼らは子供をどこかにやってしまった。ゼウスはそれを知ってクーレースたちを殺したが、イーオーは子供を探しに出かけた。

全シリアをさまよい歩いて---というのはそこで、ビュブロスプの[妻が]息子を保育している[ということを]教えられたからである--エパポスを発見し、エジプトに赴いて当時のエジプト王テーレゴノスと結婚した。

P072 そしてデーメーテールの像を建てた。エジプト人はデーメーテールをイーシスと呼び、またイーオーをも同じ名で呼んだのである。

 エパポスはエジプトに君臨して、ナイルの娘メムピスを娶り、彼女の名に従ってメムピス市を建て、リビアの地がその名に由来している娘リビュエーを生んだ。リビュエーとポセイドーンとの間に双生児アゲーノールとベーロスとが生まれた。アゲーノールはフェニキアに去ってその王となり、そこで大氏族の祖宗となった。ゆえに彼の話は後回しにする48

いっぽうベーロスはエジプトに留まり、エジプトに君臨して、ナイルの娘アンキノエーを娶り、彼に双生児アイギュプトス(⁼「エジプト」)およびダナオスが生まれた。しかしエウリーピデースの言うところによれば、さらにケーペウスとピーネウスとが生まれた。ベーロスはダナオスをばリビアに、アイギュプトスをアラビアに住まわした。
(随時更新)
P074/ 076/ 078
(略)
 アクリシオスが男の子を得ることに関して神託を乞うたところが、神は彼の娘から子供が生まれ、その子は彼を殺すであろうと言った。アクリシオスはこれを恐れて、地上に

P080 青銅の室を造り、ダナエー(参照)を張番した。この女をプロイトスが犯し、これより彼らの間に争いが起こったと一部の人々は言うが、また一部の人々によれば、ゼウスが黄金に身を変じて、屋根を通してダナエーの膝に流れ入り、彼女と交わったのである。(『名画で味わうギリシャ神話の世界』相互参照

後アクリシオスは彼女からペルセウスが生まれたことを知って、ゼウスによって犯されたことを信ぜず、娘を子供とともに箱に入れて海に投じた。箱がセリーポスに漂着した時に、ディクテュスはこの子供を拾い上げて養育した。

ディクテュスの兄弟のポリュデクテースはセリーポス王であった。ダナエーに恋したが、ペルセウスが成人したので、彼女に近づくことができず、オイノマオスの娘ヒッポダメイアとの結婚のために祝物の寄与を集めると称して、ペルセウスをも含めて親しい人々を呼び集めた。

ペルセウスがゴルゴーン(参照)の首といえども否とは言わないと言ったので、他の人々からは馬を所望しながら、ペルセウスからは馬を受取らず、ゴルゴーンの首を持ってくるように命じた。

彼はヘルメースとアテーナーに導かれてポルコスの娘たち、エニューオー、ペプレードー、デイノー(グライアイ参照)の所に行った。この女たちはケートーとポルコスの娘で、ゴルゴーンたちの姉妹であり、生まれた時から老婆であった。

三人は一つの眼と一つの歯を持ち、これを互いに順に廻していたのである。ペルセウスはこれを自分のものとし、彼女らがそれを返してくれと要求した時に、ニムフたちの所へ

P81通ずる道を教えてくれればかえそうと言った。これらのニムフは翼のあるサンダルと「キビシス」とを持っていた。キビシスとは袋であると言われる。

(ピンダロスおよび「楯58」の中においてヘーシオドスは、ペルセウスについて、
彼の背は恐ろしき怪物ゴルゴーの<頭>に蔽われ、
キビシスは彼をめぐりて走りぬ59
と言っている。衣服と食料とがその中に収められているから、かく言われるのである60。)

彼女らはまた<地獄王(ハーデース)>の帽子を持っていた。ポルコスの娘たちが道を示した時に、歯と眼とを彼女らにかえし、ニムフの所に行ってその欲するところの物を得、キビシスを身に纏い、サンダルをば踵につけ、帽子を頭にかぶった。

この帽子をかぶっていると自分の欲するものは見ることができるが、他の者からは見られないのである。またヘルメースから金剛の鎌を得て、空を飛んでオーケアノスに来り、ゴルゴーンたちが眠っているところを見つけた。

ゴルゴーンたちはステノー、エウリュアレー、メドゥーサである。メドゥーサのみが不死でなかった。それゆえにペルセウスはこの女の頭を取りにやられたのである。ゴルゴーンたちは竜の鱗でとり巻かれた頭を持ち、歯は猪のごとく大きく、手は青銅、翼は黄金で、その翼で彼女らは飛んだ。そして彼女たちを見た者は石に変じた。ペルセウス

P082 は彼女らが眠っている上に立ちふさがって、アテーナーに手を導かれ、面をそむけつつ、それによってゴルゴーンの姿を眺める青銅の楯の中を眺めながら、彼女の首を切った。

首を切り取るやゴルゴーンより有翼の馬ペーガソスとゲーリュオーンの父クリューサーオールが飛び出した。これらはメドゥーサがポセイドーンによって生んだのである。

ペルセウスはキビシスの中にメドゥーサの首を入れ、再び立ち戻った。ゴルゴーンたちは眠りから起きて、ペルセウスを追ったが、帽子のために彼を見ことができなかった。これによって隠さていたからである。

彼はケーペウスが支配していたエティオピアに来て、その娘アンドロメダーが海の怪物の餌食として供えられているのを見出した。というのは、ケーペウスの妻カッシエペイアが海のニムフたちと美を争って、すべてのニムフよりも美しいと誇ったからである。

そこで海のニムフたちは怒ったし、ポセイドーンは彼女らとともに憤慨し、高潮と怪物とを送った。アムモーンが、もしカッシエペイアの娘アンドロメダーが怪物のの餌食として供えられるならば、禍いから救われるであろうと予言したので、ケーペウスはエティオピア人に強いられて、これを行い、娘を岩に縛りつけた。

ペルセウスは彼女を見て恋し、もし救われた少女を彼に妻にくれるつもりならば、怪物を退治しようとケーペウスに約束した。

P83この条件で誓いが交わされたので、彼は怪物を待伏せて殺し、アンドロメダーを解放した。しかしケーペウスの兄弟で最初のアンドロメダーの婚約者であったピーネウスが彼に対して陰謀をこらした。

しかしその陰謀を知って、ゴルゴーンを見せて彼をその共謀者たちとともに忽ち石と化してしまった。セリーポスに赴き、ポリュデクテースの暴行のためにデュクテュスとともに祭壇に遁れている母を見出し、彼は宮殿に入って、ポリュデクテースが友人たちを呼び集めていた時に、自分は面をそむけてゴルゴーンの頭を見せた。

それを見て各人はその時の姿のままで石になってしまった。デュクテュスをセリーポス王に据えて、サンダルとキビシスと帽子とはヘルメースにかえしたが、ゴルゴーンの首はアテーナーに捧げた。ヘルメースは上述の品々をまたニムフたちにかえし、アテーナーはその楯の中央にゴルゴーンの首を挿入した。

しかし一部の人々はメドゥーサはアテーナーに頭を断たれたと言っている。彼らはまたゴルゴーンが女神と美をも競わんと欲したのであると主張している。

ペルセウスはダナエーとアンドロメダーとともにアクリシオスに会いにアルゴスに急いだ。しかし彼は<これを知り61>神託62を恐れてアルゴスを去り、ペラスギオーティスの地に行った。

ラーリッサ人の王テウタミデースは喪くなった父のために運動競技を催した

P084 が、ペルセウスもまた競技に参加しようと思ってやって来た、そして五種競技に参加している間に円盤をアクリシオスの足に投げて。たちどころに彼を殺してしまった。神託が果たされたこと知ってアクリシオスを市外に葬り、自分の手にかかって死んだ人の相続をするために帰るのを恥じて、ティーリュンスのプロイトスの子メガペンテースの所に赴き、交換を行い、彼にアルゴスを譲った。そしてメガペンテースはアルゴス人を支配し、ペルセウスはさらにミデア63とミュケーナイとを城壁で囲んで、ティーリュンスを支配した。

アンドロメダーから彼に男の子が数人生まれた。すなわちギリシアに来る前にケーペウスの所に残して来たペルセウス---彼からペルシア人の王たちが生まれたと言われている---それからミュケーナイにおいてはアルカイオス、ステネロス、ヘレイオス、メーストール、エーレクトリュオーンおよびペリエーレース64が妻とした一女ゴルゴポネーである。

アルカイオスとペロプスの娘アステュダメイア、一部の人の言によればグーネウスの娘ラーオノメー、また他の人々の説ではメノイケウスの娘ヒッポノメーからアムピトリュオーンと娘のアナクソーが生まれ、メーストールとペロプスの娘リューシディケーとからヒッポトエー(系図wiki)が生まれた。

この女をポセイドーンが掠ってエキーナデス群島に連れて行って交わり、タピオスを生んだ。彼はタポスを創建し、祖国から遠くに赴いたという理由から

P85その人民をテーレポエース65と呼んだ。タピオスから男子プテレラーオスが生まれた。彼をポセイドーンはその頭に黄金の毛髪を植えて不死とした。プテレラーオスに男児クロミオス、テュラノス、アンティオコス、ケルシダマース、メーストール、エウエーレースが生まれた。

エーレクトリュオーンはアルカイオスの娘アナクソーを娶って、娘アルクメーネー、男児[ストラトバテース66]、ゴルゴポノス、ピューロノモス、ケライネウス、アムピマコス、リューシノモス、ケイリマコス、アナクトール、アルケラーオスを生み、この子供の後でプリュギアの女ミデア67によって庶子リキュムニオスをも生んだ。

ステネロスとペロプスの娘ニーキッペーより、アルキュオネーとメドゥーサ、およびミュケーナイをも支配したエウリュステウスもまた後になって生まれた。というのはヘーラクレースが生まれんとした折に、ゼウスは神々の間で、その時まさに生まれんとするペルセウスの後裔がミュケーナイの王となるであろうと言ったところが、ヘーラーは嫉妬からエイレイテュア(=「お産の神」)にアルクメーネーのお産を止めるように説得し、七カ月であったステネロスの子供エウリュステウスが生まれるようにしたからである。

エーレクトリュオーンがミュケーナイの王であった時に、プテレラーオスの子供たちが

P086 タポスの人々とともにやって来て、彼らの外祖父メーストールの領地を要求した。そしてエーレクトリュオーンが耳をかさないので彼らは彼の牝牛を追い去ろうとした。エーレクトリュオーンの息子らがこれを防いだので、彼らは戦いを挑んで互いに殺し合った。

エーレクトリュオーンの息子の中ではまだ年少であったリキュムニオスが、またプテレラーオスの息子の中では船を守っていたエウエーレースが生き残った。タポスの人々のうち遁れた者は追って来た牝牛を持って出航し、エーリスの王ポリュクセノスに預けたが、アムピトリュオーンがポリュクセノスから贖ってミュケーナイに連れて行った。

しかしエーレクトリュオーンは息子たちの死の復讐をしたいと思って、王国と娘のアルクメーネーとをアムピトリュオーンに委ね、自分が帰って来るまで彼女を処女のまま守ることを誓わしめ、テーレボエース人に対して軍を進めることを企てた。

彼が牝牛を受け取ろうとしている時に、一頭が飛び出したので、アムピトリュオーンは手の中の棒を牝牛に投げたところが、棒は角からはねてエーレクトリュオーンの頭にあたり、彼を殺してしまった(相互参照)。

そこでステネロスはこれを口実にしてアルゴス全土よりアムピトリュオーンを追放し、ミュケーナイとティーリュンスの支配権を自己の手中に収めた。ミデアをば、ペロプスの息子アトレウスとテュエステースを呼びよせて、彼らに委任した。

アムピトリュオーンはアルクメーネーとリキュムニオスとともにテーバイに来て、クレオーンによって罪を潔められ、自分の姉妹のペリメーデーをリキュムニオスに与えた。しかし、アルクメーネーが彼女の兄弟の死の仇をうってくれれば結婚すると言うので、アムピトリュオーンはその約束をし、テーレボエース人に対して軍を進めようとし、クレオーンに協力するように乞うた。

しかしクレオーンは先ず彼がカドメイアから雌狐を追い払ってくれるならば軍を進めようと言った。雌の猛狐がカドメイアを荒らしていたからである。アムピトリュオーンはは仕事にとりかかったが、何人もこの獣を捕らえることができないように運命づけられていた。

しかしこの地が荒らされるので、テーバイ人は毎月市民の子供を一人獣に供えた。もしそうしないと大勢の子供を掠うからである。そこでアムピトリュオーンはアテーナイのデーイオネウスの子ケパロスの所に行って、テーレボエース人からの分捕品の分前を与える条件で、プロクリスがミーノースからもらってクレータ島より連れて来た68犬を狩りに連れて来るように説いた。

この犬もまた追いかけたものはすべて何でもすべて捕らえる定められていたのである。雌狐が犬に追われた時に、ゼウスは両方とも石に化した。アムピトリュオーンはアッティカのトリコスよりはケパロスを、ポーキスからはパノペウスを、アルゴスのヘロースからはペルセウスの子ヘレイオスを、テーバイからはクレオーンを味方として、

P088 タポス人の島々を掠めた。ところがプテレラーオスが生きている間はタポスを陥れることはできなかったが、プテレラーオスの娘コマイトーがアムピトリュオーンに恋して父の頭から黄金の毛を取り去ったので、プテレラーオスは死に、彼は全諸島を手中に収めた。

アムピトリュオーンはコマイトーを殺し、分捕品を持ってテーバイに航行し、島々をヘレイオスとケパロスに与えた。そして彼らは自分の名をとって名づけた市を建設して住まった。

アムピトリュオーンがテーバイに着く前にゼウスは夜の間にやって来て、その一夜を三倍にし、アムピトリュオーンの姿となってアルクメーネーと衾をともにし、テーレボエース人に関する出来事を語った(『名画で味わうギリシャ神話の世界』相互参照、ヒュギーヌス『ギリシア神話集』相互参照)。

アムピトリュオーンが着いて、妻が彼に対して愛情を示さないのを見て、その原因を尋ねた。前夜やって来て一緒に寝たと彼女が言ったので、テイレシアースからゼウスとの交わりの出来事を聞いた。

アルクメーネーは二人の子供を生んだ、すなわちゼウスには一夜だけ年上のヘーラクレース、アムピトリュオーンにはイーピクレースを。子供が八ヵ月の時に、ヘーラーが赤児を殺そうと思って二匹の蛇を臥床に送った。

アルクメーネーはアムピトリュオーンに大声で助けを求めたが、ヘーラクレースがたちあがって両手で蛇を絞め殺した。しかしペレキューデースはアムピトリュオーンが、

P089どちらが彼の子供であるかを知りたく思って、蛇を臥床に投げ込み、イーピクレースは逃げ、ヘーラクレースはたち塞がったので、イーピクレースが彼から生まれたことを知ったと言っている。

ヘーラクレースはアムピトリュオーンによって戦車を駆ることを、アウトリュコスによって相撲を、エウリュトスによって弓術を、カストールによって武器の遣いかたを、リノスによって竪琴を教えられた。

彼はオルペウスの兄弟であって、テーバイに来て、テーバイ人となり、ヘーラクレースに竪琴で打たれて死んだ。というのは(リノスに)なぐられて怒って殺してしまったからである。

殺人罪に問われた時に、彼は正当防衛は罪に問われずというラダマンテュスの言った法を引用して、かくして彼は放免された。アムピトリュオーンにこのようなことを再びしはしないかと恐れて、彼を牛飼場へ送った。そしてそこで養育されて、大きさにおいても力においても、すべての者にたちまさった。

見ただけでも彼がゼウスの子であることが明らかであった。彼の身体は六尺あり、眼からは火の光が輝いていたからである。矢で射ても投槍で射ても命中せぬということがなかった。

牛の群とともにいる間に、十八歳でキタイローン山の獅子を退治した。この獅子がキタイローンから飛び出してきて、アムピトリュオーンとテスピオス89の牛を殺したからである。

P090 この人はテスピアイの王で、ヘーラクレースは獅子を捕えようと思って彼の所へやって来た。彼はヘーラクレースを五十日間歓待して、狩に行くたびに毎夜一人の娘をともに寝かせた---彼にはアルネオスの娘メガメーデーから生まれた五十人の娘があって、すべての娘がヘーラクレースによって子供を設けることを彼は熱心に希望したからである。

ヘーラクレースは自分と衾をともにしている娘が常に一人であると思って、すべての娘と契りを交わした。そして獅子を退治し、その皮を身に纏い、その開いた口を冑として用いた。

テーバイから貢物を受取りにエルギーノスによって遣わされた使者が狩から帰ってくる途中の彼に出逢った。テーバイ人はエルギーノスに次の理由で貢物を払っていたのである。ミニュアース人の王のクリュメノスを、その名をペリエーレースと呼ばれるメノイケウスの御者が石を投げて、オンケーストスのポセイドンの神域で傷つけた。

王は半死のありさまでオルコメノスに運ばれ、息子のエルギーノスに死に際してその死の復讐をするように命じた。エルギーノスはテーバイに軍を進め、少なからぬ人々を殺し、テーバイ人は二十年間毎日百頭の牝牛の貢物として送るという誓いで以て休戦した。

この貢物をとりにテーバイに赴く使者に途中で出逢って、ヘーラクレースはひどい目にあわせた。というのは彼らの耳と鼻と手を切り取り[縄で90]頸に結びつけ、これを貢物としてエルギーノスとミニュアース人に持って行くようにと言った。

P091これに憤ってエルギーノスはテーバイに軍を進めた。ヘーラクレースはアテーナーから武器を得て軍の将となり、エルギーノスを殺し、ミニュアース人を敗走せしめ、二倍の貢物をテーバイ人に払うように強いた。

しかしアムピトリュオーンが勇敢に戦いつつ戦死するという出来事があった。ヘーラクレースはクレオーンより褒美として長女メガラーをもらい、彼女から三人の息子すなわちテーリマコス、クレオンティアデース、デーイコオーンが生まれた。妹のほうの娘をクレオーンは、すでにアルカトゥースの娘アウトメドゥーサによって一子イオラーオスをもうけていたイーピクレースに与えた。

またゼウスの子ラダマンテュスはアムピトリュオーンの死後アルクメーネーを娶り、亡命者としてボイオーティアーのオーカレアイに住んだ。

ヘーラクレースは最初にエウリュトスより弓術を習って、ヘルメースからは剣を、アポローンからは弓と矢を、ヘーパイストスからは黄金の胸当てを、アテーナーからは長衣(ぺプロス)を得た。棍棒は自分でネメアーで切り取ったからである。

ミニュアース人に対する戦さの後にヘーラーの嫉妬のために気が狂い、メガラーによって得た自分の子供とイーピクレースの二人の子供とを火中に投じた出来事があった。それゆえ彼は自分自身に追放の判決を下して、テスピオスによって(罪を)潔められて後、

P092 デルポイに赴き、どこに居住すべきかを神に問うた。ピュートーの巫女はその時初めてヘーラクレース(71「ヘーラーによって有名になる」の意)と彼を呼んだ。というのはそれまではアルケイデースと呼ばれていたからである。

彼はティーリュンスに住み、エウリュステウスに十二年間奉仕して、命ぜられる十の仕事を行い、かくして、と巫女は言った、功業が完成した後に、彼は不死となるであろう、と。

 ヘーラクレースはこれを聞いてティーリュンスに行き、エウリュステウスによって命ぜられたところを行った。第一にネメアーの獅子の皮を持って来ることを命じた。これは不死身の獣で、テューポーンから生まれたのである。

獅子にむかって行く途中でクレオーナイに来て、日傭人のモロルコスの所で客となった。そしてモロルコスが犠牲を捧げようとした時に、ヘーラクレースは三十日目まで待つように、そして狩から無事帰還した場合には救世主ゼウスに捧げ、もし彼が死んだその時には死者72として彼に供えるようにと言った。
(略、第二・水蛇(ヒュドラー))
P094第三・ケリュネイアの鹿。第四・エリュマントスの猪。ケイローンの死
(略)
P095ヘーラクレースが酒を要求すると、彼はケンタウロス族の共有の甕を開けることは心配だと言った。しかしヘーラクレースが心配するなと言って、甕を開けた。そして暫くたつと香をかいでケンタウロスどもが岩と樅の木で武装して、ポロスの洞穴にやって来た。

そこで最初に勇敢に入って来たアンキオスとアグリオスをヘーラクレースは燃え木を投げつけて追い払い、そのほかの者どもをば矢で射てマレアーまで追いかけた。そこから彼らはラピテース人によってぺーリオン山から追われてマレアーに居を構えていたケイローンの所に遁れた。

彼のまわりに小さくなっているケンタウロスどもをヘーラクレースが射て一矢を放ったところが、エラトスの腕を射抜いてケイローンの膝にささった。ヘーラクレースは困って走りよって矢を引き抜き、ケイローンが手渡した薬を施した。

しかし傷が不治であったので、ケイローンは洞穴の中に引き籠り、そこで死にたいと思ったが、不死であるためにそれができず、プロメーテウスが彼の代わりに不死となるべくゼウスに自ら提供したので、それでケイローンは死んだ(相互参照)。

P096第五・アウゲイアースの家畜の糞。第六・ステュムパーロスの鳥
P098
(略)
第七番目の仕事としてクレータ島の牝牛を連れて来ることを命じた。

アクーシラオースはこれはゼウスのためにエウローペーを海を渡した牝牛であると言っているが、一部の人々はミーノースが海中より現れたものをポセイドーンに犠牲に捧げようと言った時に、ポセイドーンによって海中から送り上げられたものであると言っている。

そして彼は牡牛の美しさを見て、これを牛の群へと送り、他のをポセイドーンに捧げた。これに怒って神は牡牛を狂暴にしたのであると人は言っている。

この牛を捕えるためにヘーラクレースはクレータに来て、ミーノースに協力して捕らえることを頼んだのに対してミーノースは自分で闘って捕えるようにと答えたので、ヘーラクレースはそれを捕獲してエウリュステウスの所へ持って行って見せた後、自由に放ってやった。

牡牛はさまよってスパルタとアルカティアー全土を通り、さらにコリントス地峡を渡り、アッティカのマラトーンに来て住民を悩ました。

第八番目の仕事としてトラーキア人ディオメーデースの牝馬をミューケーナイに持ち来ることを彼に命じた。彼はアレースとキューレーネーとの子で、トラーキアの甚だ好戦的な

P099ビストーン族の王で、人食い馬を持っていた。ヘーラクレースは喜んで行をともにする人々ともに海を航して、牡馬の秣槽まぐさおけの世話をしている者たちを圧伏して、牡馬を海へ連れて行った。

しかしビストーン人らが武装して助けに来たので、牡馬をアブデーロスに護るようにと渡した。彼はヘルメースの子で、オプースのロクリス人であり、ヘーラクレースの少年であった。

ところが牡馬が彼を引きずって殺した。ヘーラクレースはビストーン人たちと闘い、ディオメーデースを殺し、他の者どもを敗走せしめ、殺されたアブデーロスの墓の傍らに一市アブデーラを創建し、牡馬を持って来てエウリュステウスに与えた。

しかしエウリュステウスはそれを放ったので、オリュムポス山と呼ばれる山に来て、野獣に殺される。

第九番目の仕事として、ヘーラクレースにヒッポリュテーの帯を持って来ることを命じた。彼女はテルモードーン河岸に居を構え、戦争に偉大な民族であるアマゾーンたちを支配していた。

というのは、彼女たちは武を練り、交合して子供を生むことがあれば、女の子は養育し、右の乳房は鎗を投げる邪魔にならぬように緊しめ取り、左の乳房は養育のために残しておくのであった。

ヒッポリュテーは他のすべての女たちの第一人者である徴としてアレースの帯を持っていた。エウリュステウスの娘アドメーテーがそれを欲しがったの

P100 で、ヘーラクレースがこれを獲得すべく遣わされたのである。そこで志願者の仲間を得て一隻の船に乗って海を航し、ミーノースの息子エウリュメドーン、クリューセース、ネーパリオーン、ピロラーオスが住んでいたパロス島に寄航した。

ところが下船した船の者たちの中の二人が、ミーノースの息子たちの手にかかって殺されるという事件が起った。彼らのために憤ってヘーラクレースは直ちにこの者たちを殺し、残りの者を押し囲んで攻囲し、ついに彼らは使者を派して彼の欲する者を誰でも二人殺された者の身代りに取ることを乞うた。

そこで彼は囲いを解き、ミーノースの息子アンドロゲオースの子アルカイオスとステネロスとを取って、ミューシアーのダスキュロスの子リュコスの所に来た。

そして(彼の)客となった。(彼と73)ベブリュクス人の王とが戦っていたので、リュコスの味方をして多くの者どもを殺し、その中にはアミュコスの兄弟ミュグドーン王もあった。そしてベブリュクス人の多くの地をさいてリュコスに与えた。リュコスはその地全体をヘーラクレイアと呼んだ。

彼がテミスキューラにある港に入港すると、彼のところへヒッポリュテーが来て、なんのために来たかを尋ね、帯を与えると約束をしたのであるが、ヘーラーはアマゾーンの一人に身を変じて、やって来た異邦人どもは女王を掠って行こうとしているといいながら群集

P101の中をあちこち歩き廻った。そこで彼女らは武装して馬に跨り、船にむかって殺到した。彼女らが武装しているのを見てヘーラクレースはこれは謀事であると考え、ヒッポリュテーを殺し、帯を奪い、他の女たちと闘って後出航して去り、トロイアーに寄港した。

その当時この市はアポローンとポセイドーンとの怒りにふれて困っていた。というのはアポローンとポセイドーンとが、ラーオメドーンの放埓をためそうと思って、人間に身をやつし、ペルガモンの城壁を報酬をおもらう約束で築こうと言った。

しかし彼らが築き終わっても報酬を支払おうとはしなかった。それゆえにアポローンは疫病を、ポセイドーンは高潮によって運び上げられるところの怪物を送り、怪物は平野で人々を掠った。

もしもラーオメドーンが彼の娘ヘーシオネーを怪物の餌食に供えるならば災いから免れるであろうとの神託があったので、彼は海辺の岩に彼女を縛りつけて捧げた。この女がさらされているのを見てヘーラクレースは、もしもゼウスがガニュメーデースを奪った代償として与えた牝馬をラーオメドーンからもらえるならば救ってやろうと言った。

やろうとラーオメドーンが言ったので怪物を殺してヘーシオネーを救った。しかし報酬を与えることを拒んだので、ヘーラクレースはトロイアーに対して戦いを開くであろうと嚇かしておいて出航した。

P102 そして彼はアイノスに寄航し、そこでポルテュスの客となった。出航する時に彼はアイニアーの海岸でポセイドーンの息子でポルテュスの兄弟である放埓な男サルペードーンを射殺した。そしてタソスに来て住んでいたトラーキア人を征服し、アンドロゲオースの息子たちに住むように与えた。

タソスからトローネーに進み、ポセイドーンの子プローテウスの子ポリュゴノスとテーレゴノスが相撲を挑んだのを相撲って殺した。そして帯をミュケーナイに持って来てエウリュステウスに与えた。

第十番の仕事としてゲーリュオネースの牛をエリュテイアから持って来ることを命ぜられた。エリュテイアはオーケアノスの近くの、今ではガデイラと呼ばれている島であった。この島にクリューサーオールとオーケアノスの娘カリロエーとの子ゲーリュオネースが住んでいた。

彼は三人の男の身体が腹で一つになっていて、脇腹と太腿からは三つに分かれた身体を持っていた。彼は紅い牛を持っていて、その牛飼いはエウリュティオーン、番犬はエキドナとテューポーンから生まれた双頭の犬オルトスであった。

そこで、ゲーリュオネースの牛を目ざしてヨウロッパを通過して多くの野獣を殺し、リビアに足を踏み入れ、タルテーソスに来たり、旅の記念としてヨウロッパとリビアの山上に向かい合って二つの柱を建てた。

その旅の間に太陽神(ヘーリオス)に照りつけられたので、神にむかって弓を引きしぼった。

P103神は彼の豪気に感嘆して、黄金の盃を与え、彼はこれに乗ってオーケアノスを渡った。そしてエリュテイアに至って、アパース山中に宿った。犬が彼を認めて彼にむかって突進して来た。しかし彼はこれを棍棒で打ち、犬を助けに来た牛飼いのエウリュティオーンをも殺した。しかしそこで地獄王(ハーデース)の牛を飼っていたメノイテースが事件をゲーリュオネースに告げた。

彼はアンチムース河畔に牛を追い去りつつあるヘーラクレースに追いつき、戦いを交え、射られて死んだ。ヘーラクレースは牛を盃に乗せ、タルテーソスに渡航し、太陽神(ヘーリオス)に盃をかえした。

アブデーリアを通り(74南スペインのフェニキアの植民都市を指す)、リギュスティーネーに来ると、そこでポセイドーンの息子であるイアレピオーンとデルキュノスとが牛を奪わんとしたので、彼らを殺し、テュレーニアーを通って進んだ。

レーギオンで一頭の牝牛が破り遁れ(75この地は南イタリアの端、シシリの島との海峡に面している)急いで海に飛び込んでシシリ(に)泳ぎ渡り(76その名によってイタリアと呼ばれる--というのはテュレーニアー人は牝牛を「イタロス」(Italos)と呼んだからである77--)近くの地を通りエリュモイ人の王エリュクスの平野に来た。

エリュクスはポセイドーンの子で、牝牛をば自分の家畜群の中に紛れ込ませた。そこでヘーラクレースはヘーパイストスに牝牛を託して、それを探索に急いだ。エリュクスの家畜の群の中で発見し、エリュクスが相撲で彼に勝たなければ与

P104 えないと言ったので、相撲で三度勝って彼を殺し、牝牛を得、他の牛とともにイーオニア海へと追って行った。しかし海の入江に来た時にヘーラーが牛に虻を送り、牛はトラーキアの山々の麓でちりぢじりになった。

ヘーラクレースはは牛を追いかけ、一部分は捕まえてヘーレスポントスに連れて行ったが、一部分は残されてその後野生となった。やっとのことで牛が集まった後彼はストリューモーン河を責め、その流れはかつて航行可能であったのを岩で塞いで航行できないようにし、牛を持って来てエウリュステウスに与えた。そこでエウリュステウスはこれをヘーラーに犠牲に供した。

仕事が八ヵ年と一ヵ月で完遂された時に、エウリュステウスは、アウゲイアースの家畜と水蛇(ヒュドラー)の仕事を除外して、第十一番目の仕事としてヘスペリスたちから黄金の林檎をもって来るように命じた。

これは一部の人々の言うようにリビアにあるのではなく、ヒュペルボレオス人の国の中のアトーラスの上にあったのである。それを大地がヘーラーと結婚したゼウスに与えたのである。テューポーンとエキドナから生まれた不死の百頭竜がその番をしていた。

彼はあらゆる種類のさまざまな言葉を話したのである。それとともにヘスペリスたち、すなわちアイグレー、エリュテイア、ヘスペリアー、アレトゥーサが番をしていた。このようにして旅する途上で彼はエケドーロス河にやって来た。そしてアレースと

P105ピューレーネーの子キュクノスが一騎打ちを彼に挑んだ。アレースが彼のために立って、一騎打ちを仕組んだのであるが、両人の真中に雷霆が投げられて、戦さを解いた。イリュリアーを徒歩で通って、エーリダノス河へと急ぎ、ゼウスとテミスとの間に生まれたニムフたちの所に来た。

彼女らは彼にネーレウスを教えた。ヘーラクレースは眠っているところを捕え、あらゆる姿に変身するネーレウスを縛り、どこに林檎とへスぺリスたちがいるかを彼から教わるまで放さなかった。

教わってから彼はリビアを通り過ぎた。この地の主はポセイドーンの子アンタイオスであって、彼は異邦人を強いて相撲わしめては殺していた。ヘーラクレースは彼と相撲をすることを強いられたので、しっかと両腕で抱えて高々と差上げ、粉砕して殺した。

というのは彼は大地に触れると一層強くなったからである。それだから一部の人々は彼は大地の子であると主張したのである。

リビアの後にエジプトを通過した。ポセイドーンとエパポスの娘リューシアナッサの息子プーシーリスがこの地の王であった。この王はある信託に従って異邦人をゼウスの祭壇で犠牲に供した。

というのは九年の間不作がエジプトを襲い、学識ある予言者プラシオスがキュプロスから来って、毎年ゼウスに異邦人を殺して捧げるならば不作はやむであろうと言ったからである。

プーシーリスは先ずかの予言者を殺し、ついでやって来る異邦人を

P106 殺していた。そこでヘーラクレースも捕らえられて祭壇へと運ばれたが、網目を破って、プーシーリスとその子アムピダマースを殺した。

アジアを通って、リンドス人の港テルミュドライに寄った。そして一人の牛追いの一方の牛を車からはずして犠牲にし、飲み食いした。牛追いは自分ではどうすることもできなかったので、ある山の上に立って呪った。それだから今でもヘーラクレースに犠牲を捧げる時には、呪いとともにこれを行うのである。

アラビアに沿って進んでいる時にティートーノスの子エーマティオーンを殺した。そしてリビアを通って外海に進み、太陽神(ヘーリオス)から盃を受け取って、向い側の大陸に渡り、プロメーテウスの肝臓を食っている、エキドナとテューポーンとから生まれた鷲をカウカサス山上で射殺した(相互参照)。

そしてオリーヴの縛めを自ら選んだ後(78)、プロメーテウスを解き放ち、ゼウスに彼の代わりに不死でありながら死を欲したケイローン(相互参照参照)を呈した。

ヒュペルポレオス人の他の地のアトラースの所に来た時に、プロメーテウスがヘーラクレースに自分で林檎を取りに行かないで、アトラースの蒼穹を引きうけて、彼を遣わせと言ったので、それに従って蒼穹を引きうけた。

アトラースはへスぺリスたちから三つの林檎をとって来て、ヘーラクレースの所へやって来た。そして蒼穹を担うことを厭って79(林檎は

P107自分でエウリュステウスの所に持参すると言い、天空をば彼が代わりに支えるように命じた。しかしヘーラクレースはそうしようと言って、謀事を用いてアトラースの肩に天空を置いた。というのはプロメーテウスの助言によって、)円座を頭に乗せる(まで、天空を引きうけてくれと言ったからである。)

これを聞いてアトラースは林檎を地上において蒼穹を受取った。このようにしてヘーラクレースは林檎を取って立ち去った。しかし一部の人々はアトラースから受取ったのではなくて、彼が番をしている蛇を殺し、林檎をもいだのであると言っている。

林檎を持って行ってエウリュステウスに与えた。しかし彼はそれを受取ってヘーラクレースに贈物とした。彼からアテーナーが受取って林檎をまた元に還した。というのはそれをどこにおくのも法に反していたからである。

第十二番目の仕事として地獄からケルペロスを持って来ることを命ぜられた。これは三つの犬の頭、竜の尾を持ち、背にはあらゆる種類の蛇を頭を持っていた。これを目指して出発しようとして、秘教に入会させてもらう目的でエレウシースのエウモルポスの所へ来た。

しかしその当時は異邦人は入会を許さなかったので、ピュリオスの養子となって入会した。しかしケンタウロスの殺戮から身を潔められていなかったので、秘教会を見ることができず、エウモルポスに潔められて、それから入会を許された。そして地獄へ降る道

P108 の入口のあったラコーニアーのタイナロンに来り、この入口から降りた。諸霊が彼を見た時、メレアグロスとゴルゴーンのメドゥーサ以外は逃げた。彼はゴルゴーンに対してあたかも生けるかのごとく刀を抜いたが、ヘルメースからそれは空しい姿にすぎないことを教わった。

地獄の門の近くに来てテーセウスとペルセポネーに求婚してそのために縛られたペイリトゥースとを見出した。彼らはヘーラクレースを見て、あたかも彼の力によって蘇生するように手を差し延べた。

彼はテーセウスの手を取って醒ましたが、ペイリトゥースを立ちあがらせようとすると、大地が動揺したので、彼は放した。彼はアスカラポスの岩をも転がして除けた80。彼は霊魂に血を供しようと欲し、地獄王の牝牛の一頭を殺した。

しかし牝牛を飼っていたケウトーニュモスの子メノイテースがヘーラクレースに相撲の挑戦ををした。そして身体の真中をつかまれて、脇骨を砕かれたが、ペルセポネーに乞いうけられた。彼がプルートーンにケルペロスを求めた時に、プルートーンは彼の持っている武器を使わないで圧伏して連れ出るように命じた。

彼はケルペロスをアケローンの門で発見して、胸当てをつけ、獅子の皮で身を蔽い、犬の頭を両手で抱き、尾にある竜で噛まれたけれども、いうことをきくまでは猛獣をつかみしめることをやめなかった。

そして彼はそれを伴ってトロイゼーンを通って上った。しかしアスカラポスをばデーメーテールはみみずくにし、

P109ヘーラクレースはエウリュステウスにケルペロスを見せて後、再び地獄に持って行った。

この仕事の後、ヘーラクレースはテーバイに来て、メガラー※をイオラーオスに与え、自分は結婚しようと思って、
(※メガレーwiki、ヒュギーヌス『ギリシア神話集』相互参照
オイカリアーの支配者エウリュトスが、彼とその息子たちを弓術で負かした者に褒美として娘のイオレーを妻として提供しているのを知った。そこでオイカリアーに来て、弓術で彼らを任したが、結婚はできなかった。

息子の中の年長のイーピトスはヘーラクレースにイオレーを与えようと言ったが、エウリュトスと他の息子たちは、子供を作って、また生まれた子供を殺しはしないかと心配だと言って、拒否したからである。

暫く後にアウトリュコスによってエウポイアから牛が盗まれた時に、エウリュトスはヘーラクレースのしわざであると思ったが、イーピトスはそれを信ぜず、ヘーラクレースの所に来て、彼がアドメートスのために死んだアルケースティスを救って、ペライから来るのに出遭い、ともに牛を探すようにと誘った。

ヘーラクレースはその約束をして、彼を歓待していたが、再び気が狂って、ティーリュンスの城壁から彼を投げた。殺人の穢れを潔めてもらおうとネーレウスの所に来た。これはピュロス人の支配者であった。しかしネーレウスはエウリュトスへの友情のために彼を拒否したので、アミュクライ

P110 に来て、ヒッポリュトスの子デーイポボスによって潔められた。しかしイーピトスを殺したためにひどい病気にとりつかれて、デルポイに至り、病気から遁れる法を尋ねた。

ピュートーの巫女が彼に神託を与えなかったので、神殿を掠奪し、三脚を持ち去って自分の神託所を建てようと思った。アポローンが彼と闘っている時にゼウスが彼らの間に雷霆を投じた。

かくして彼らが別れた時に、ヘーラクレースは、自分の身が売られ、三年間奉仕し、殺人の償いとしてエウリュトスにその代価を支払えば病を除くことができるであろうという神託を得た。神託が与えられた後、ヘルメースがヘーラクレースを売った。

そして彼をイアルダネースの娘で、リューディアー人の女王オムパレーが買った。(ヒュギーヌス『ギリシア神話集』相互参照、『ギリシャ・ローマ神話』(ブルフィンチ野上弥生子訳岩波文庫)相互参照

夫のトモーロスが死ぬ時に彼女に支配権を遺したのである。エウリュトスはもたらされた代価を受取らなかったが、ヘーラクレースは、オムパレーに仕えている間にエペソスの近傍にいたケルコープス81を捕まえて縛り、また通りかかる他国人に掘る事を強いていたシュレウスをアウリスでその娘のクセノドケーとともども、根ごとその葡萄の木を焼いた後殺した。

そしてドリケー島にたち寄って、イーカロスの死骸が海岸に打ち上げられているのを見て葬り、その島をドリケーの代わりにイーカリアーと呼んだ。そのお礼にダイダロスはピーサにヘーラクレースの像を建てた。それをヘーラクレースは夜間に生きているものと誤って、石を投げつけた。

P111オムパレーに仕えている間にコルキスへの航海82とカリュドーンの猪狩83が行われ、またテーセウスがトロイゼーンから来て、地峡より(悪者どもを)掃討84したと言われている。

奉公の後に、病を免れ、優れた勇者の志望者からなる軍勢を集めて、十八艘の五十櫓の船を以てイーリオンにむかって航海した。イーリオンに着いて、船の番をオイクレースに委ねて、自分は他の英雄たちとともに市にむかって進んだ。

しかしラーオメドーンは多勢を以て船を襲い、オイクレースを戦闘の間に殺したが、ヘーラクレースの軍に追い払われて包囲された。包囲となって、まず最初にテラモーンが城壁を破って市中に入り、ヘーラクレースがそれにつづいた。

テラモーンが一番に入ったのを見た時に、何人も自分より優れていると思われていることを欲せず、刀を抜いて彼にむかって突進した。これを知ってテラモーンは近くにある石を集めた。

そしてヘーラクレースが何をしているか尋ねると、彼は光輝ある勝利者ヘーラクレースの祭壇を築いているのだと言った。彼はこれを賞美して、市を攻略した時に、ラーオメドーンおよびポダルケース以外の彼の息子たちを射殺し、ラーオメドーンの娘ヘーシオネーを賞としてテラモーンに与えた。

そして彼女に誰でも好きな者を俘虜の中から連れて行くことを許した。彼女が兄弟のポダルケースを選んだ時に、

P112 先ず彼が奴隷となって、それから彼女が何か彼の代償を払って後彼を得なければならないと言った。そこで彼女は頭からヴェールを取って、彼が売られる時にその代償として払った。それでポダルケースはプリアモス85と呼ばれたのである。

ヘーラクレースがトロイアーから海を航行している時にヘーラーがひどい風を送った。それを怒ってゼウスはオリュムポスから彼女を吊しさげた。ヘーラクレースはコースにむかって船を進めた。

コース人は彼が海賊船隊を率いて来るものと考えて石を投げて船を近づけるのをはばんだ。しかし彼は強行して夜間にコースを取り、アステュパライアーとポセイドーンの子エウリュピュロス王を殺した。

ヘーラクレースは戦闘の間にカルコードーンに傷つけられたが、ゼウスが彼を奪い去ったので何らの害をうけなかった。コースを破壊してから、アテーナーの仲介でプレグライに来り、神々とともに巨人たちを打ち破った。

その後暫くして彼はアルカディアーの軍勢を集め、ヘラスの一流の人々の中よりの志望者を伴い、アウゲイアースにむかって軍を進めた。アウゲイアースはヘーラクレースが戦さの準備をしていると聞いて、エウリュトスとクテアトスの二人をエーリス人の将に任じた。

彼らは二人でありながら一身になっていて、その力は当時の人々を抜き、

P113モリーオネーとアクトールの息子であったが、ポセイドーンの子であると言われていた。アクトールはアウゲイアースの兄弟であった。しかしヘーラクレースが軍旅の間に病むこととなったために、モリーオネーの息子たちと休戦した。が、彼らはのち彼が病気であることを知って、その軍を襲い、多くの者を殺した。

そこでヘーラクレースはその時には退いたが、後第三イストモス祭が行なわれて、エーリス人がモリーオネーの息子たちを犠牲に参加するために送った祈りに、ヘーラクレースはクレオーナイで待伏せして、彼らを殺し、エーリスに軍を進めて市を陥れた。

そしてアウゲイアースをその息子たちとともに殺し、ピューレウスを連れ戻して彼に王国を与えた。またオリュムピア競技を設け、ペロプスの祭壇86を築き、十二神の六祭壇を建てた。

エーリス攻略の後ピュロスに進軍し、その市を陥れ、ネーレウスの息子の中で最も逞しい、姿を変じつつ戦うを常としていたペリクリュメノスを殺した。またネーレウスおよびネストールを除く彼の息子たちを殺した。

ネストールは若年でゲレーニオイ人の所で育てられていたのである。戦さの間にピュロス人を援助した地獄王(ハーデース)をも傷つけた。

ピュロス攻略の後ヒッポコオーンの息子たちを罰せんと欲して、ラケダイモーンにむかって軍を進めた。彼らがネーレウスに味方したのでも怒ったが、リキュムニオスの息子

P114 を殺したのでなおこのこと怒ったからである。というのは、彼がヒッポコオーンの王宮を眺めていた時にモロシア産の犬が走り出て彼に飛びかかった。そこで彼は石を投げて犬を撃つと、ヒッポコオーンの息子たちが走り出て来て、彼を棍棒で打って殺してしまったからである。

彼の死の復讐しようと、ラケダイモーン人に対して軍勢を集めた。そしてアルカディアーに来り、ケーペウスに彼の持っている二十人の息子とともに味方になることを乞うた。

しかしケーペウスは、彼がテゲアーを留守にするとアルゴス人が攻めて来はしまいかと心配して、遠征を断った。ヘーラクレースはアテーナーから青銅製の壺の中に入っているゴルゴーンの毛髪を得て、もし軍勢が攻め寄せて来たならば、その髪を三度城壁から差し上げ、前を見ないでいるならば、敵は敗走するであろうと言って、ケーペウスの娘ステロペーに与えた。

そこでケーペウスは息子たちとともに軍を進めた。そして戦塵の間に彼とその息子たちは死に、彼らのほかにヘーラクレースの兄弟イーピクレースもなくなった。ヘーラクレースはヒッポコオーンおよびその息子たちを殺し、市を制圧し、テュンダレオースを連れ戻して彼に王国を与えた。

テゲアーを通る時にヘーラクレースはアレオスの娘であるとは知らずにアウゲーを犯した。女は密かに赤児を生んでアテーナーの神城中に置いた。その地が疫病で荒らされたので、

P115アレオスは神城にたち入り、探索の結果娘のお産を発見した。そこで赤児をばパルテニオス山に棄てた。そして赤児は神慮によって救われたのである。というのは、子供を生んだばかりの牝鹿が彼に乳房を与え、羊飼いどもがその子を拾ってテーレポスと呼んだからである。

アウゲーをばアレオスはポセイドーンの子ナウプリオスに他国で売るように与えた。彼はテウトラニアーの支配者テウトラースに彼女を与え、彼は女を妻とした。

ヘーラクレースはカリュドーンに来てオイネウスの娘デーイアネイラに求婚し、彼女を争って牝牛の姿をしていたアケローオスと格闘して、その一方の角を折った。そしてデーイアネイラと結婚し、角は、アケローオスがその代わりにアマルテイアの角を与えて受取った。

アマルテイアは牝牛の角を持っているハイモニオスの娘であった。この角は、ペレキューデースの言によれば、食物だろうが飲物だろうが欲するところのものを豊富に提供する力を持っていた。

ヘーラクレースはカリュドーン人とともにテスプローティアー人に対して軍を進め、エピュラー市を攻略した。この市の王はピューラースであった。そしてその娘アステュオケーと交わってトレーポレモスの父となった。

彼らの下に留まっていた時に、テスピオスに人を派し、七人の子供は(自分の下に)留め、三人はテーバイに、残りの四十人87(参照)は植民

P116 地を建設するためにサルディニア島に送るようにと言った。これらのことがあった後、オイネウスの所で宴を開いている間に、アルキテレースの息子エウノモスが水を彼の手に注いでいる時に指の節で打って殺してしまった。

この子はオイネウスの近親であった。しかし、子供の父は、事故が故意になされたものでないので、許そうとしたが、ヘーラクレースは法に従って追放されることを望み、トラーキースのケーユクスの所にたち去る決心をした。

デーイアネイラを伴ってエウエーノス河に来た。この河にケンタウロスのネッソスが坐っていて、彼の正徳によって神々より渡しを授かったと称し、報酬を取って通行人を渡していた。それでヘーラクレースは自分で河を渡ったが、報酬を要求されたのでデーイアネイラを渡してくれるようにとネッソスに委ねた。

ところが彼は渡している間に彼女を犯そうとした。彼女の叫びを聞いてヘーラクレースはネッソスが河から出て来るところを心臓を射た。まさに死なんとする時にデーイアネイラを呼び寄せて、ヘーラクレースに対して媚薬が欲しいならば、彼が地上に落とした精液と鏃の傷から流れ出る血とを混ずるがよいと言った。彼女はその通りにして、自分の身につけて蔵った。

P117ヘーラクレースはドリュオプス人の地を通っている時に食糧がなくなって、牛追いのテイオダマースに出遇い、その片方の牛をはずし、殺して食った。トラーキースケーユクスの所に来た時、彼に迎えられてドリュオプス人を征服した。

その後そこより進んでドーリス人の王アイギミオスの味方となって戦った。というのはラピテースたちが土地の境界に関してコローノスを将として彼と戦い、王は囲まれて、土地を分ち与える条件でヘーラクレースに助けを求めたからである。

ヘーラクレースは援助して、他の者とともにコローノスを殺し、全土を自由にして彼に与えた。彼はまたドリュオプス人の王で、無道な男、ラピテースらの味方であるラーオゴラースがアポローンの神域で宴を張っているところを、その息子どもと一緒に殺した。

イトーノスを通過していると、アレースとペロピアーの子キュクノスが彼に一騎打ちを挑んだ。そこで矛を交え、この男をも殺した。オルメニオンに来た時に、アミュントール王が武力にうったえて彼の通過を許そうとしなかった。しかし通行のじゃまをされて、ヘーラクレースはこの男をも殺した。

トラーキースに着いて、エウリュトスに復讐せんものと、オイカリアーを襲うべく軍を集めた。アルカディアー人、トラーキースのメーリス人、エピクネーミスの地のロクリス

P118 人を味方として、エウリュトスをその息子らとともに殺し、市を取った。そして彼とともに軍に加わったものの戦死者、すなわちケーユクスの子ヒッパソス、リキュムニオスの子アルゲイオスとメラースを葬り、市を掠奪し、イオレーを捕虜としてひいて行った。

エウポイアのケーナイオン岬に船を泊めて、ケーナイオンのゼウスに祭壇を築いた。そして犠牲を捧げようと思って、使者の(リカース88)に美々しい衣服を取りにトラーキースにやった。

デーイアネイラは彼からイオレーのことを聞き、彼女をよけいに愛しはしまいかと心配し、ネッソスの流血を本当に媚薬だと信じて、これをその下着に塗った。そこでヘーラクレースはこれを着て犠牲を行なった。

ところが下着が暖められるとともに水蛇(ヒュドラー)の毒が皮膚を腐蝕し始めた。そこでリカースをばその両足を以て持ち上げて[ポイオーティアーの](岬から89)投げ下し、肉にくっついてしまった下着を引き剝がした。

そこで肉もまた一緒に引き剥がされた。このような不幸なさまで船でトラーキースに運ばれた。デーイアネイラは事件を知って自ら縊れた。ヘーラクレースは デーイアネイラから生まれた子供の中の年長のヒュロスに成人してからイオレーを妻とすることを命じ、オイテー山---これはトラーキース人の地にある---に赴き、そこに火葬壇を築き、その上に登って火をつけることを命じた。

誰もそれを行うことを欲しないでいる時に、ポイアースが羊の群を探して通りかかり、火をつけた。

P118ヘーラクレースは彼に弓を与えた。火葬壇が燃えている間に雲が彼の下に来て、雷鳴とともに彼を空へと運び上げたと言われる。そこで不死を得、ヘーラーと仲直りし、その娘へーべーを娶り、彼女より息子のアレクシアレースとアニーケートスが生まれた。(『ギリシャ・ローマ神話』(ブルフィンチ野上弥生子訳岩波文庫)相互参照

彼にテスピオスの娘たちから次の子供が生まれた。すなわちプロクリスからアンティレオーンとヒッペウス---長女は双生児を生んだからである。--
(生まれた子供の記述、略)
P120
(生まれた子供の記述、略)
ヘーラクレースが神々の中に移された後に、彼の息子らはエウリュステウスから遁れてケーユクスの所に来た。しかしエウリュステウスが彼らを引き渡すようにと言って、戦いにうったえると嚇したので、彼らは恐れた。

そしてトラーキースを捨ててギリシアを横切って逃げた。追われてアテーナイに来り、「憐れみの祭壇」に坐して援助を乞うた。アテーナイ人は彼らを引き渡さず、エウリュステウスに対して一戦を交え、その息子のアレクサンドロス、イーピメドーン、エウリュビオス、メントール、ペリメーデースを殺した。

エウリュステウス自身は戦車に乗って遁れ、まさにスケイローニスの岩壁を馬を馳って通ろうとしているところをヒュロスが追跡して殺し、その首を切り取ってアルクメネーに与えた。彼女は筬で以てその両眼をくり抜いた。

エウリュステウスが死んだ後にヘーラクレースの後裔はペロポネーソスを襲い、すべての都市を攻略した。彼らが帰還して一年目に疫病が全ペロポネーソスに蔓延した。神託が

P122 これはヘーラクレースの後裔が原因で生じたのであることを明らかにした。彼らが定めの時以前に帰還したからである。そこで彼らはペロポネーソスを棄ててマラトーンへ退き、そこに居住した。

さてトレーポレモスは、彼らがペロポネーソスから退去する前に誤ってリキュムニオスを殺した。彼が杖で召使いを打っている時にその間にわけて入ったからである。彼は少なからぬ人々とともに遁れてロドスに至り、そこに居を構えた。

しかしヒュロスは父の命に従ってイオレーを妻とし、ヘーラクレースの後裔のために帰還を遂行すべく努力していた。それゆえに彼はデルポイに来て、帰還の方法を尋ねた。神は三度目の収穫を待って後に帰ると言った。

ヒュロスは三度目の収穫とは三年の意味であると考えて、その間待って、軍を率いて帰って行った90……ヘーラクレースの(子供らを)ペロポネーソスに。

その時オレステースの子ティーサメネースがペロポネーソス人の王であった。そして再び戦争が起こって、ペロポネーソス人が勝利を得、アリストマコスが死んだ。[クレオダイオス91]の息子たちが成人した時に、帰還について神託を求めた。神が前と同じことを言った時に、テーメノスはこれを信用して不幸な目にあったと言って神を責めた。

しかし神は不幸の原因は彼らにあると言った。彼らは神託を理解しなかったからである。というのは土地の収穫ではなくて子孫の収穫を意味したのであり、狭い所とはコリントス地峡の

P123右側の広い腹を持った海を意味したのであると92。これを聞いてテーメノスは軍を準備し、ロクリスの、今ではその故事によってナウパクトスと呼ばれている93所で船を建造した。

そこに軍が留まっている間にアリストデーモスはアウテシオーンの娘アルゲイアとの間に生まれた双生児のエウリュステネースとプロクレースとを後に遺して雷に撃たれて死んだ。

また軍もナウパクトスにおいて禍いに陥る運命に出逢った。というのは神託を称え神がかりとなった一人の予言者が彼らに現われ、軍の人々は彼をペロポネーソス人によって軍に禍いするために送られた魔術師だと考えた。

この男をヘーラクレースの子アンティオコスの子ピュラースの子ヒッポテースが投槍を投げ、命中させて殺してしまった。このことがあった後、海軍は船が破壊されて滅亡し、陸軍は不幸にも飢饉に犯され、軍隊は解散してしまった。

テーメノスが禍いについて神託を求め、神が予言者のためにこれが生じたのであると言い、殺害者を十年間追放し、また案内者として三眼の男を使うべしと命じたので、ヒッポテースを追放し、三眼の男を探した。

そして一眼の馬---というのは一方の目が矢で飛び出してしまったからである---に跨っている、アンドライモーンの子オクシュロスに出逢った。というのはこの男は人を殺してエーリスに遁れ、一年経ったのでそこからアイトーリアーに帰る途中であったからである。神託の意を解してこの男を案内者とした。

P124 そして敵と合戦し、陸軍も海軍も戦に勝って、オレステースの子ティーサメノスを殺した。彼らの味方をしていたアイギミオスの子パムピューロスとデュマースも死んだ。

ペロポネーソスを征服した後に、祖神ゼウスの三つの祭壇を築き、その上で犠牲を捧げ、諸都市を籤引きにした。そこで最初の籤がアルゴス、第二がラケダイモーン、第三がメッセーネであった。

水瓶を持ち来って、おのおのが籤を投入することにした。そこでテーメノスとアリストデーモスの子のプロクレースとエウリュステネースは石を投じたが、クレスポンテースはメッセーネを得たいと思って土塊を投げ入れた。これは溶けるから二つの籤が必ず現れなければならなかった。

第一にテーメノスのが、第二にアリストデーモスの子供らのが引かれたので、クレスポンテースはメッセーネーを得た。彼らが犠牲を捧げた祭壇上に徴が置かれているのを見出した。アルゴスを得た者は蟾蜍、ラケダイモーンを得た者は竜、メッセーネーを得た者は狐であった。

徴に関して予言者たちは蟾蜍を得た者は、その動物は進んでいる時には力がないから市に留まるがよい、竜を得た者は恐るべき攻撃者となるであろう。狐を得た者は計略にたけているであろうと言った。

テーメノスは子供のアゲラーオス、エウリュピュロス、カリアースをば素通りして、娘のヒュルネートーとその犬のデーイポンテースを可愛がった。そこで息子らは人を傭って

P125自分の父を殺さしめた。殺人が行われるや、軍はヒュルネートーとデーイポンテースが王国を得るのが正当であるとした。クレスポンテースは暫くメッセーネーを支配して後、二人の息子とともに殺された。そしてヘーラクレースの真の後裔の一人であるポリュポンテースが王となり、殺された人の妻メロペーを彼女の意志に反して妻としたが、彼もまた殺された。(ヒュギーヌス『ギリシア神話集』相互参照

というのは、メロペーには三番目のアイピュトスと呼ばれる息子があり、自分の父に彼を養うように与えた。これが成人して密かに帰国し、ポリュポンテースを殺し、父の王位を得たからである。

第三巻 P127-192
P127
第一~七章 アゲーノールの後裔 P127-155
第八~九章 ペラスゴスの後裔 P155-159
第一〇~一二章 アトラースの後裔 P159-175
第一二~一三章 アーソーポスの後裔 P175-180
第一四~一五章 アテーナイの王 P180-192
第一六章 テーセウス P192-
第一~七章 アゲーノールの後裔 P127-155
 今やべーロスよりヘーラクレースの後裔に至るイーナコスの一族を語り終わったから、ついでアゲーノールの族のことをことを語ろう。すでに述べたごとく(前出二・一・四を見よ)、リビュエーはポセイドーンによってベーロスとアゲーノールの二人の子供を生んだ。

さてベーロスはエジプト人を支配して、上述の子供を儲けたが、アゲーノールのほうはフェニキアに赴き、テーレパッサを娶って一女エウローペーおよび男子カドモス、ポイニクス、キリクス94を生んだ。

一説によればエウローペーはアゲーノールのではなくして、ポイニクスの娘であるという。彼女をゼウスが恋して、慣れたおとなしい牡牛に身を変じ、彼女を背に海を渡ってクレータに連れて行った。

そこでゼウスは彼女と床をともにし、女はミーノース、サルペードーン、ラダマンテュスを生んだ。しかしホメーロスによれば(Ⅱ.Ⅱ.198f.)サルペードーンはゼウスとベレロポンテースの娘ラーオダメイアの子である。

エウローペーが失踪するや、その父アゲーノールは、エウローペーを探し出すまでは帰るなと言って、息子たちを探索に出した。彼女の捜索にその母テーレパッサとポセイドーンの子タソス---ペレキューデースによればキリクスの子--が行をともにした。

あらゆる手をつくして探してエウローペーを見つけることができなかった時に、彼らは帰国を断念して、おのおの異なる地に居を定めた。ポイニクスはフェニキアに、キリクスはフェニキアの近傍に。

P129 そして彼は自分の支配下にあるピューラモス河付近のすべての地をキリキアーと呼んだ。カドモスとテーレパッサはトラーキアに居を定め、同じくタソスもトラーキアに[近い島に95]タソス市を建設してそこに居住した。

エウローペーをばクレータ人の支配者アステリオスが娶って、彼女の息子らを育てた。しかし彼らは、成長すると、互いに相争った。というのはミーレートスと呼ぶ少年を愛したからであって、彼はアポローンとクレオコスの娘アレイアの子であった。

少年はサルペードーンに好意を寄せていたので、ミーノースは戦いを起し、勝利を得た。そこで他の者は遁れ、ミーレートスはカーリアーに上陸して、そこに自分の名を与えたミーレートス市を建設した。

サルペードーンはリュキアー人と戦っていたキリクスに、その地の一部を得ることを条件に、味方して闘い、リュキアーの王となった。そしてゼウスは彼に人間三代の生命を与えた。

しかし一説によれば、彼らの愛したのはゼウスとカッシエペイアの子アテュムニオスであって、彼のために争ったのであると。ラダマンテュスは島人たちのために立法者となったが、後ボイオーティアーに遁れ、アルクメネーを妻とし(前出・二・四・一一を見よ)、死後冥府においてミーノースとともに判官となっている。

ミーノースはクレータに居住し、法を定め、太陽神ヘーリオスとペルセーイスの娘パーシパエーを娶り---但しアスクレピアデースは

P130アステリオスの娘クレーテーであったという---息子カトレウス、デウカリオーン、グラウコス、アンドロゲオース、娘アカレー、クセノディケー、アリアドネー、パイドラーを、またニムフのバイレアによってエウリュメドーン、ネーパリオーン、クリューセース、ピロラーオスを、またデクシテアーによってエウクサンティオスを得た。

アステリオスは子なくして死んだので、ミーノースはクレータの王となろう欲したが反対された。そこで彼は神々よりこの王国を授けられたものであると称して、その証拠として何事であれ彼の願うことは遂げられると言った。

そしてポセイドーンに犠牲を捧げつつ、海底より牡牛の現れんことを祈り、現れた牡牛を神に捧げることを約した。ポセイドーンは彼に見事な牡牛を(海底より)送ったので、彼は王国を獲得したが、その牡牛を犠牲は自分の飼っている牛の群にやり、外のを犠牲に供した。

彼は海上の支配権を最初に握ったので、ほとんどあらゆる島々を統治下においた。ポセイドーンは彼が例の牡牛を犠牲に供しなかったので、憤り、この牡牛を猛悪に士、パーシパエーがこれに対して欲情を抱くように企んだ。

彼女は牡牛に恋し、殺人の罪でアテーナイより追放せられた工匠ダイダロスを共謀者とした。彼は車のついて木製の牡牛を製作し、これを取って内部を空洞にし、王牡牛を剥いでそおの皮を縫いつけ、かの牡牛が常に草をはんでいる牧場におき、パーシパエーを

P131 その中に入れた。牡牛がやって来て、真の牡牛と思って交わった。そこで彼女はアステリオス、一名ミーノータウロスを生んだ。彼は顔は牡牛であったが、他の部分は人間であった。

ミーノースはある信託に従って彼を迷宮ラビュリントス中に閉じこめて見張っていた。迷宮ラビュリントスはダイダロスが造ったものであるが、「もつれにもつれし紆余曲折に出口を迷わす」一室であった。

ミーノータウロス、アンドロゲオース、パイドラー、アリアドネーに関する話はテーセウスの項において後述するであろう。

 ミーノースの子カトレウスからはアーエロペー、クリュメネー、アペーモシュネーおよび一男アルタイメネースが生まれた。自分の生涯がいかに終わるかと神に伺いを立てたカトレウスに神は彼が子供の一人の手にかかって死ぬであろうと言った。

そこでカトレウスはこの信託を秘していたが、アルタイメネースがこれを聞き、自分の父の殺害者となることを恐れ、姉妹のアペーモシュネーとともにクレータを去り、ロドス島の或る所に船を着け、その地を領有してクレーティニアー96と名づけた。

彼はアタビュリオンと呼ばれる山に登って、周囲の島々を眺め、かつクレータをも認めて、祖先の神々を想起し、アタビュリオン97のゼウスの祭壇を設けた。しかしその後間もなく彼は自分の姉妹を自ら手を下して殺すこととなった。というのは、ヘルメースが彼女に恋し、遁れる彼女に追いつくことができなかったので--

P132彼よりも足が速かったからである---道に新しく剥いだ皮を敷いておいた。女は泉より帰る途中この上で滑り、かくして犯された。彼女は兄弟にこのことを明かしたが、神というのは口実であると考え、足蹴りにして殺してしまった。

アーエロペーとクリュメネーをばカトレウスは他国に売るようにとナウプリオスに与えた。二人の中アーエロペーをプレイステネースが娶り、アガメムノーンとメネラーオスを生んだ。一方クリュメネーをナウプリオスが娶り、オイアクスとパラメーデースの父となった。

しかしカトレイウスは後老齢に襲われた時、王国を息子のアルタイメネースに譲りたくてたまらず、そのためロドスに行った。島のある人気のない地点に勇士たちと上陸すると、彼は海賊の来襲と思った牛飼いどもに追われた。

そして犬の吠え声のために彼が本当のことを言うのが聞こえず、石を投げつけている時にアルタイメネースがやって来て、カトレウスとは知らずに、手槍を投げて殺してしまった。後に事実を知って神に祈り、大地の間隙に姿を隠した。

 デウカリオーンにはイードメネウスとクレーテーと庶子モロスとが生まれた。しかしグラウコスは未だ幼い時に、鼠を追いかけている間に蜜の大甕に落ちて死んでしまった。彼が見えなくなったので、ミーノースは大捜索を行い、発見の方法について神に伺いをたてた。

P133 クーレース98たちがミーノースに、彼はその牛の群の中に一頭の三色の牡牛を所有しているが、この牡牛の色を最も巧みに表わし得る少年を生きたままでかえすであろうと言った。

そこで陰陽師たちが呼び集められた時に、コイラノスの子ポリュイドスは牡牛の色を黒苺の実99に譬えた。そこで子供を探すことを強いられ、ある種の占い100によって発見した。

しかしミーノースが生きたままでなくてはならないと言い、彼は死骸とともに閉じ込められた。大いに困惑していた時に、蛇が死骸のほうへ行くのを見た。もし死体に何か害が加えられて101は、自分もまた殺されるかもしれないと恐れて、石を投げつけて蛇を殺した。

ところがもう一匹の蛇が来て、先の蛇が死骸となっているのを認めて立ち去り、後ある草を持ち帰って来て、他の蛇の身体全体に乗せた。草が置かれたかとおもうと蛇は生きかえった。

これを眺めてポリュイドスは驚き、同じ草をグラコウスの身体にあてて生きかえらせた。ミーノースは子供を取り戻したが、それでもなおポリュイドスがグラウコスに占いの術を教えるまではアルゴスにたち去ることを許さなかった。

ポリュイドスはやむを得ず教えた。そして出帆しようとする時にグラウコスに彼の口の中に唾をはくように命じた。グラウコスがそうすると、占術を忘れてしまった。エウローペーの後裔に関する話はこれで終りとする。

 カドモスは死んだテーレパッサを葬り、トラーキア人に客としてもてなされた後、エウローペーに関する報を得ようとデルポイに赴いた。神は、しかし、エウローペーについていろいろと気に病むのはやめにして、牡牛を道案内とし、牡牛が疲れて倒れた地に一市を建設せよと言った。

かく神託をうけて、ポーキス人の地を通過して進み、ペラゴーンの牛群の中に一頭の牡牛に出遇い、その後に従った。牡牛はボイオーティアーを通り抜けた後、今日のテーバイの市がある所で横になった。

牡牛をアテーナイに捧げんものと、自己の従者の中より数名をアレースの泉に水を汲みにやった。ところが、一説によればアレースの子であると言われる竜が泉を護っていて、派遣された者の大部分を殺した。

カドモスは怒って竜を殺し、アテーナイの勧めによってその歯を播いた。歯が播かれると地中より武装の男たちが立ち現われた。これを「スパルトイ」(=「播かれたる者」)と言う。

彼らは、あるいはふとした拍子で相争い、あるいは知らずして、互いに殺し合った。ペレキューデースの言によればカドモスは、地中より武装の男どもが生え出るのを見て、石を投げつけたところ、彼らは互いに石を投げつけられたと思い、争い始めたのであるという。

しかしエキーオーン、ウーダイオス、クトニオス、ヒュペレーノール、ペローロスの五人が生き残った。カドモスは殺した者たちの償いにアレースに「無限の一年」を仕えた102

P135 その当時この一年は我々の八年に相当したのである。

この奉仕の後でアテーナーは彼に王国を得せしめ、ゼウスはアプロディーテーとアレースの娘ハルモニアーを妻として与えた。そしてすべての神々は天界を去って、カドメイアーにおいて宴を張り、この結婚を祝い歌った。

カドモスは妻に長衣ペプロスとヘーパイストスの作った頸飾りとを与えた。一説にはこれをカドモスに与えたのはヘーパイストスであると言われるが(相互参照)、ペレキューデースは、エウローペーであり、彼女はこれをゼウスより得たと言う。

カドモスにアウトノエー、イーノー、セメレー、アガウエーの娘たち、男子はポリュドーロスが生まれた。イーノーをアタマースが、アウトノエーはアリスタイオスが、アガウエーはエキーオーンが娶った。

セメレーをゼウスが愛して、ヘーラーに秘して床をともにした。セメレーはヘーラーにあざむかれ、ゼウスが彼女にいかなることでも願いをかなえると承諾したので、彼がヘーラーに求婚していた時の姿で自分の所に来るように求めた。

ゼウスは断ることができかねて、電光と雷鳴とともに戦車に駕して彼女の臥床ふしどに来り、雷霆を放った。セメレーは恐怖のあまり世を去ったので、彼は六カ月で流産した胎児を火中より素早く取り上げて、自分の太腿の中に縫い込んだ。

セメレーが死ぬと、カドモスの他の娘らはセメレーが誰か人間と床を分ち、ゼウスを偽って責任者としたのであって、

P136そのために雷霆に撃たれたのであるという話を拡げた。適当な時にゼウスは縫い目を解いてディオニューソスを生み、ヘルメースに渡した。ヘルメースはこれをイーノーとアタマースのところへ連れて行って、少女として育てるように説いた。

しかしヘーラーは怒って彼らを狂わせ、アタマースは上の方の子供レアルコスを鹿と思って猟リたてて殺し、一方イーノーはメリケルテースを煮たった大釜に投げ込み、それから子供の死骸とともにこれを抱えて海底深く飛び込んだ。

そして彼女はレウコテアー、子供はパライモーンと呼ばれているが、これは船乗りのつけた名である。というのは嵐にあった人々を助けるからである。イストモス祭の競技は、メリケルテースに捧げられたものであって、シーシュポスがその創設者である。

ディオニューソスをゼウスは仔鹿に変じてヘーラーの怒りより隠し、ヘルメースが彼を受取ってアシアのニューサに住むニムフたちの所に持って来た。ゼウスは後彼女らを星に変じ、ヒュアデスと呼んだ。

アウトノエートアリスタイオスに一子アクタイオーンが生まれた。彼はケイローンの所で育てられて、狩猟を教えられ、後キタイローン山中で自分の犬どもに食われた。アクーシラーオスの言によれば、このような死にざまをしたのは、彼がセメレーの愛を求めたのをゼウスが憤ったためであるというが、大部分の人々は、アルテミスが水浴びしているのを見たためであると。

P137 そして女神は忽ちにして彼の姿を鹿に変じ、彼に従っていた五十頭の犬を狂気させ、犬は知らずして彼を啖ったという。アクタイオーンの死後犬は主人を求めて咆え、探し求めつつケイローンの洞穴に来た。ケイローンはアクタイオーンの像を造り、これが犬の悲しみを鎮めた103

 ディオニューソスは葡萄の木を発見した。ヘーラーが彼を狂わしめたので、彼はエジプトとシリアをさまよい歩いた。そして最初にエジプト王プローテウスが彼を迎え入れたが、後プリュギアーのキュベラに赴き、そこでレアーによって潔められ、その秘教の儀を学んだ。

女神よりその衣装を授けられた後、[インドへと104]トラーキアを通って急いだ。ドリュアースの子リュクールゴスはストリューモーン河付近に住んでいるエードーノス人の王であったが、彼を侮辱して追放した最初の人であった。

ディオニューソスは海中へ、ネーレウスの娘テティスの所へ遁れた。そしてバッケー(⁼「酒神に従って歩く狂乱の女」)たちと彼に従っていたサテュロスらの多くの者が捕虜となった。

しかし後にバッケーらは突然に解放せられ、ディオニューソスはリュクールゴスの気を狂わせた。彼は狂気の裡うらに自分の息子のドリュアースを、葡萄の木の枝を剪きっているつもりで、斧で打ち殺し、その身体の端々を切り取った後、正気にかえった。

しかしこの地が実らないままであった時に、

P138神はリュクールゴスが殺されたならば、実るであろうと神託を下した。エードーノス人はこれを聞いて、彼をパンガイオン山に連れて行って縛った。そこで彼はディオニューソスの意志によって馬にめちゃめちゃにされて死んだ。

ディオニューソスはトラーキアを通過し[そして全インドを通って、そこに柱を建てた105後に]テーバイに来て、そこの婦人たちに家を棄ててキタイローン山中において乱舞せしめた。

アガウエーの腹から生まれたエキーオーンの子ペンテウスは、カドモスより王国を継承したが、これを防がんとして、バッケーたちを監視すべくキタイローンに来り、自分の母アガウエーによって狂気のうちに四肢を引き裂かれた。

アガウエーは彼を野獣だと考えたからである。ディオニューソスはテーバイ人たちに自分が神であることを顕わして後アルゴスへと来た。そこでまた彼らが彼を崇うやまわないので、婦人たちの気を狂わしめた。

彼女らは山中において乳吞児ちのみごたちの肉を啖った。イーカリアーよりナクソスへ渡ろうと欲してテュレーニアー人の海賊船を傭った。彼らは彼を乗せてナクソスをば通り過ぎ、彼を売ろうとしてアジアへと急いだ。

しかし彼は檣柱マストと櫂かいとを蛇に変え、船を蔦つたと笛の音とでみたした。彼らは気が狂って海中へ遁れ、海豚いるかとなった。かく人々は彼が神なることを知って敬った。

そして彼は冥府より母を上界に連れ来り、テュオーネーなる名を与え、彼女とと

P139 ともに天に昇った。

一方カドモスはハルモニアーとともにテーバイを棄ててエンケレイス人の所に赴いた。イリュリアー人に彼らは襲われていたが、神は彼らがカドモスとハルモニアーを指導者とするならばイリュリアー人を征服するであろうと予言した。

彼らはこれを信じて、彼らをイリュリアー人に対する指導者になし、そして征服した。カドモスはイリュリアー人を心配し、一子イリュリオスが生まれた。後ハルモニアーとともに大蛇に変身し、ゼウスによってエーリュシオンの野に送りやられた106

ポリュドーロスはテーバイの王となり、クトニオスの子ニュクテウスの娘ニュクテーイスを娶り、ラブダコスを生んだ。彼はペンテウスとよくにた考えであったために彼の後で殺された107

ラブダコスは一歳の子ラーイオスを後に残したので、ラーイオスが子供の間ニュクテウスの兄弟のリュコスが政権を簒奪した。二人ともアレースとボイオーティアーの女ドーティスの子プレギュアースを殺害したので、エウボイアより遁れ、ヒュリアーに居を構えていたのであって、それから…108ペンテウスと親しかったために市民となった。

そこでリュコスはテーバイ人によって軍の指導者に選ばれて後、権力をわがものとし、二十年間王として君臨したが、次のごとき理由によりゼートスとアムピーオーンに殺されて死んだ。

P140アンティオペーはニュクテウスの娘であった。彼女とゼウスが相交わった。彼女が身重になった時に、父が彼女を嚇したので、シキュオーンのエポーペウスの所へ逃げ去り、彼と結婚した。

ニュクテウスは気落ちして、リュコスにエポーペウスとアンティオペーを罰することを命じた後、自殺した。そこでリュコスはシキュオーンに軍を進め、これを征服し、エポーペウスを殺し、アンティオペーを捕虜として引き立てた。

引き立てられて行く間に、彼女はボイオーティアーのエレウテライで二人の子供を生んだ。彼らは棄てられたが、牛飼いが見つけて育てあげた。そして一人をゼートス、一人をアムピーオーンと呼んだ。

ゼートスは牛飼いに身を入れ、アムピーオーンは、ヘルメースが彼に竪琴を与えたので、ことを練習した。リュコスとその妻ディルケーはアンティオペーを幽閉して虐待した。

ある時縛いましめが自ら解けたので、アンティオペーは人知れず子供たちの小舎こやに来て、彼らに自分をとめてくれるように頼んだ。彼らは母を認めて、リュコスを殺し、ディルケーをば牡牛に縛りつけ、死んだ彼女を、その名によってディルケーと呼ばれている泉の中に投げ入れた。

そして王権を継承し、市で城壁で囲んだ。アムピーオーンの琴の音に石が従ったのである。そしてラーイオスを追放した。そこでラーイオスはペプロスの客となって、ペロポネーソスに日を送った。

そしてその息子のクリューシッポスに戦車を馳かる

P141 術を教えている間に彼に想いを寄せ、彼を誘拐した。

ゼートスはテーベーを娶った。テーバイ市はその名を冠して名づけられたのである。一方アムピーオーンはタンタロスの娘ニオベーを娶り、彼女は男を七人シピュロス、エウピニュトス、イスメーノス、ダマシクトーン、アゲーノール、パイディモス、タンタロス、女もまた同数のエトダイアー(または一説にはネアイラ)、クレオドクサ、アステュオケー、プティーアー、ペロピアー、アステュクラテイア、オーギュギアーを生んだ。(ヒュギーヌス『ギリシア神話集』相互参照

しかしヘーシオドスは十男十女、ヘーロドトスは二男三女、ホメーロスは六男六女が生まれたという。ニオベーは子供に恵まれたので、自分はレートーよりも子供に恵まれていると言った。

レートーはこれに憤って、アルテミスとアポローンを子供らにむけてけしかけた。そして娘の方は家の内でアルテミスが射殪し、息子のほうはキタイローン山中で猟をしているところを、すべてアポローンが殺した。

しかし男の中アムピーオーンが、女の子ではネーレウスと結婚した年上のクローリスが助かった109。テレシラ110によれば、たすかったのはアミュクラースとメリボイアであって、アムピーオーンもまた彼らによって射られたということである。

ニオベー自身はテーバイを棄てて父タンタロスの所へシピュロスへ行き、そこでゼウスに祈って姿を石に変えられ、涙が昼夜その石より流れている。(ヒュギーヌス『ギリシア神話集』相互参照

P142アムピーオーンの死後ラーイオスが王国を継いだ。そしてメノイケウスの娘を娶った。彼女の名は、ある者はイオカステー、ある者はエピカステーであると言う。神が男子を儲けるべからずと託宣を下したが---というのは生れた男子は父殺しになるであろうから---彼は酔って妻と交わった。

そして生まれた子を、その踵をブローチで貫いて牧人に棄てるようにと手渡した。しかしこの男はキタイローンに棄てたが、コリントス王ポリュボスの牛飼いが赤児を見つけて、王の妻ぺリボイア111の所にもたらした。

彼女は子供を養子とし、自分の子としてその踵を癒なおした後、オイディプースと呼んだ。この名は彼の両足プースが腫オイディれていたところよりつけたものである。子供が成人し、膂力りょりょくは同輩の者にすぐれていたので、彼らは彼を妬んで偽りの子であると罵った。

彼はぺリボイアに訊いたが何事も知ることができなかった。そこでデルポイへとやって来て、自分の真の両親について尋ねた。神は彼に自分の故郷に赴くなかれ、父を殺し母と交わるであろうから、と言った。

これを聞き、かつ表面上の両親より自分が生まれたものと信じて、コリントスをすて、戦車に乗ってポーキスを急ぎ進みつつある時に、とある狭い道で戦車に駕しているラーイオスに出遇った。

そしてポリュポンテース---これはラーイオスの伝令使であった---が道をあけよと命じ、かつ彼がそれに従わずぐずぐずしたために、彼の馬の中の一頭を殺したので、

P143 オイディプースは怒ってポリュポンテースとラーイオスを両人ともに殺害し、テーバイに着いた。ラーイオスはプラタイアイの王ダマシストラトスが葬り、王国はメノイケウスの子クレオーンが継いだ。

彼の治世中に小さからぬ災害がテーバイを襲った。というのは、ヘーラーがエキドナを母とし、テューポーンを父とするスピンクスを送ったからである。これは女面にして胸と足と尾は獅子、鳥の羽を持っていた。ムーサより謎を教わって、ピーキオン山上に坐し、テーバイにこの謎をかけた。

その謎は一つの声を有しながら、四足、二足、三足になるものは何かというのであった112。テーバイ人は、この謎が解かれた時にはスピンクスよりのがれ得るであろうという神託をうけていたので、しばしば会合して謎の意味を研究した。

しかし解くことができなかったたびに、スピンクスはその中の一人をさらって食べてしまった。多くの者が失われ。ついにクレオーンの子ハイモーンが犠牲となった時、クレオーンはこの謎を解いた者に王国とラーイオスの妻とを与えると布告した。

オイディプースこれを聞き、スピンクスの謎は人間である、というのは、赤児の時には四肢で歩くから四足、成人して二足、老年になっては杖を第三の足として加えるからであると言って、謎を解いた。

そこでスピンクスは城山より身を投じ、オイディプースは王国を継ぎ、自分の母と知らずに娶り、彼女より息子ポリュネイケースとエテオクレース、

P144娘イスメーネーとアンティゴネーとを生んだ。しかし一説によれば子供はヒュペルパースの娘エウリュガネイアより生まれたのであるという。後秘密が明らかになった時、イオカステーは縄を結んで縊れ、オイディプースはわれとわが目を盲めしいにし、市より投げ出されようとしている彼を見ながら援けようとしなかった息子たちに呪いをかけて後、テーバイより追い出された。

彼はアンティゴネーとともにアッティカのコローノスに来り、---ここはエウメニデスの聖域がある---そこに哀訴者として坐した。テーセウスによって受入れられて後、間もなく死んだ。

 エテオクレースとポリュネイケースは王権に関して互いに協定し、二人が一年おきに交互に治めることに決めた。一説には先ずポリュネイケースが治め、一年後にエテオクレースに王権を渡したというが、一説には先ずエテオクレースが治めたが、後王権を渡そうとしなかったのだという。

ポリュネイケースはそこでテーバイより追放せられて、頸飾りと長衣ペプロスとを113携えてアルゴスに来た。

アルゴスの王はタラオスの子アドラストスであった。ポリュネイケースは彼の王宮に夜中に近づき、カリュドーンより遁れて来たオイネウスの子テューデウス114と闘いを始めた。

突然起こった叫び声にアドラストスが現われて、彼らを引き分け、ある予言者が娘たちを猪と獅子に妻めあわすべしと彼に言ったのを思い出して、

P145 両人を聟むことした。というのは楯の上に、一人は猪の、一人は獅子の顔をつけていたからである。デーイビュレーをテューデウスが、アルゲイアーをポリュネイケースが娶り、アドラストスは両人にその国を戻してやると約束した。

そして先ずテーバイに軍を進めるべく急ぎ、主だった人々を召集した。

しかしオイクレースの子アムピアラーオスは予言者であって、この軍に加わった者はアドラストスを除いてすべて死すべき運命にあることを予見し、彼自身軍に加わることを躊躇し、また他の者を阻止せんとした。

しかしポリュネイケースはアレクトールの子イーピスの所に来て、どうすればアムピアラーオスを強いて軍に加え得るか教えることを求めた。彼はエリピューレーが例の頸飾りを受取ったならば、と言った。

アムピアラーオスはエリピューレーにポリュネイケースより贈物をうけることを禁じたのであったが、ポリュネイケースは彼女に頸飾りを与えて、アムピアラーオスを軍に加わるように説き伏せてくれるように頼んだ。

というのは決定権が彼女にあったからである。それは、彼がアドラストスと不和になった折に、彼はアドラストスと和した後、アドラストスとのいかなる争いもエリピューレーにこれを裁かさせるであろうと誓ったからである。

それであるからテーバイに対して軍を進める必要があり、アドラストスはこれを勧め、アムピアラーオス

P146はそうすべきではないと主張した時に、エリピューレーは頸飾りを受取って、彼にアドラストスとともに遠征するように説得したのであった。アムピアラーオスは、軍に加わざるを得なくなった時に、息子たちに彼らが成人の暁には、母を殺し、テーバイに対して遠征するように命じた。

アドラストスは軍を集め、七人の長とともにテーバイと戦うべく急いだ。長たちは次のごとくであった。タラオスの子アドラストス、オイクレースの子アムピアラーオス、ヒッポノオスの子カパネウス、アリストマコスの子ヒッポメドーン(一説にはタラオスの子とも言う)、以上の人々はアルゴスの出であるが、

オイディプースの子ポリュネイケースはテーバイの出、オイネウスの子テューデウスはアイトーリアー人、、メラニオーンの子パルテノパイオスはアルカディアー人であった。

ある人々は、しかし、テューデウスとポリュネイケースを数に入れず、七人の中にイーピスの子エテオクロスとメーキステウス115とを入れている。

彼らはリュクールゴスを王に戴いていたネメアーに来り、水を求めた。そして彼らのためにヒュプシピュレーが幼児オペルテースを後に残して泉への道案内に立った。これはエウリュディケーとリュクールゴスの子であるのを彼女が育てていたのである。というのは

P147 レームノスの女たちが、後にトアースが無事助かっていることを知った時に(前出・一・九・一七を見よ)彼をば殺し、ヒュプシピュレーを奴隷に売ったからである。

それで彼女は身を買われてた女としてリュクールゴスの所で奉公していたのである。しかし彼女が泉を教えている間に、後に残された子供は大蛇に殺された。大蛇をアドラストスとその仲間がその場に現われて殺し、子供は葬った。

しかしアムピアラーオスは彼らにこの徴は未来を語るものであると言った。そして子供をアルケモロスと呼んだ110。彼らは彼のためにネメアー祭の競技を行い、競馬ではアドラストス、競走ではエテオクロス、拳闘ではテューデウス、跳躍と円盤ではアムピアラーオス、槍投げではラーオドコス、相撲ではポリュネイケース、弓術ではパルテノパイオスが勝利を得た。

キタイローンに来た時、エテオクレースに協約通りにポリュネイケースに王権を譲るようにと前似て言わせるべく、テューデウスを使者に立てた。エテオクレースが耳をかさなかったので、テューデウスはテーバイ人をためしてみるつもりで一騎打ちを挑み、すべての者に打ち勝った。

そこで彼らは五十人の武装した者どもを彼が立ち去るところを待ち伏せさせたが、彼はマイオーン以外のすべての者を殺し、その後陣営に赴いた。

アルゴス人たちは武具に身をかためて城壁に近づき、七つの門があったので、

P148アドラストスはホモローイダイ門、カパネウスはオーギュギアイ門に、アムピアラーオスはプロイティダイ門に、ヒッポメドーンはオンカイダイ門に、ポリュネイケースはヒュプシスタイ門に、パルテノパイオスはエーレクトライ門に、テューデウスはクレーニダイ門に布置せられた。

一方エテオクレースもまたテーバイ人を武装させ、同数の長をこれに対して布置し、敵に勝つ方法の予言を求めた。さてテーバイ人にはエウエーレースとニムフのカリクローとの子なる、スパルトスの後裔117、ウーダイオス家に属する盲目の予言者テイレシアースがあった。

彼の不具となった事情と予言の力に関しては、種々の説が行われている。ある者は彼が神々によって、彼らが人間に隠そうと欲するところを明かしたために盲いにされたといい、一方ペレキューデースはアテーナーによって盲いにされたという。

というのは、カリクローはアテーナーと親しい間柄にあったが、<‥‥118>彼は女神の全裸の姿を見た。女神は彼の眼を両手で蔽って片輪にした。カリクローが視力をまた元通りにするように頼んだが、これをなし得なかったので、彼の耳を清めて鳥のあらゆる鳴声を理解し得るようにし、それを持っていると目あきと同じに歩ける山茱萸の木の枝を彼に与えた。

ヘーシオドスの言によれば、キュレーネー山中で蛇が交尾しているのを見、これを傷つけたところ、男から女になり、再び同じ蛇が交尾しているのを見て男となった(ヒュギーヌス『ギリシア神話集』相互参照)、

P149 それゆえにヘーラー(参照)とゼウスとが女と男のどちらが性交に際しより大いなる快楽を感ずるかについて口論した時に、彼に決定を乞い、彼は性交の喜びを十とすれば、男と女との快楽は一対九であると言ったので、ヘーラーは彼を盲いとなしたが、ゼウスは彼に予言の術を与えたのであるという(オウィディウス『変身物語(上)相互参照)。
テイレシアースのゼウスとヘーラーへの言葉。
十のうち男の快楽は一にすぎず、
女は十の喜びをもてその心をみたす。(tw,tw)
彼はまた非常な長寿であった119

そこで彼はテーバイ人が占いをたてた時に、クレオーンの子メノイケウスが戦の神アレースへの犠牲としてわれとわが身を捧げたならば、勝利を得るであろうと言った。これを聞いてクレオーンの子メノイケウスは城門の前で自害した。

戦闘となって、カドメイオス人(=テーバイ人)が城壁へと雪崩をうって追いつめられ、カパネウスが梯子をひっつかみ、これによって城壁に攀じのぼらんとしたが、ゼウスは彼を雷霆で撃った。これが起こった時にアルゴス人は逃げ出した。

P150多くの者が殪れた時に、両軍の決議によって、エテオクレースとポリュネイケースは王座を賭して一騎打ちをなし、相討ちとなった。再び激烈な戦闘の間にアスタコスの子らは勲をたてた。

イスマロスはヒッポメドーンを、レアデースはエテオクロスを、アムピディコスはパルテノパイオスを殪したからである。しかしエウリーピデースの言によれば、パルテノパイオスを殪したのはポセイドーンの子ぺりクリュメノスであると(エウリーピデース・「フェニキアの女たち」・一一五三行以下)。

アスタコスの今一人の子メラニッポスはテューデウスの腹部に傷つけた。彼が半死のありさまで横たわっている時、アテーナーはゼウスより乞うて薬をもたらし、これによって彼を不死にせんものと考えていた。

しかしアムピアラーオスがこれを見てとって、テューデウスが彼の意見に反してテーバイに遠征すべくアルゴス人らを説き伏せたので彼を憎み、メラニッポスの首を切り取り、彼に与えた。[テューデウスは傷つきながらも彼を殺した120]

テューデウスは彼の頭を割って脳を啖った。これを見てアテーナーは嫌悪し、前の恩恵を中止し、与えることを惜しんだ。ぺりクリュメノスがその背に傷つける前に、イスメーノス河へと遁れつつあるアムピアラーオスのためにゼウスが雷霆を投じて大地を引き裂いた。

そこで彼は戦車および御者バトーン---一説にはエラトーン---もろとも姿を消した。ゼウスは彼を不死とした。

P151 アドラストスのみは、その馬アレイオーンが救った。この馬はデーメーテールがエリーニュスの姿で以てポセイドーンと交わって生んだものである。

 クレオーンはテーバイの王権を継承して、アルゴス人の死骸をば埋葬せずに遺棄し、何人も葬礼を与えるべからずと布告して番人をおいた。しかし、オイディプースの娘の中の一人アンティゴネーは密かにポリュネイケースの死体を盗んで埋葬した。

クレオーン自身に見つかって、彼女は墓の中に生きながらにして埋められた。アドラストスはアテーナイに来り、「憐れみの祭壇」に遁れて、哀訴者の枝をその上に置き、死骸を葬るように願った121

アテーナイ人はテーセウスとともに軍を進めてテーバイ攻略し、死骸を血族者に葬るべく与えた。カパネウスの火葬壇が燃えている時に、カパネウスの妻、イーピスの娘エウアドネーは自ら火に投じて彼とともに焼かれた。

十年の後、殪れた者たちの子供らは---彼らは後裔エピゴノイと呼ばれているが---父の死の復讐をせんものと、テーバイに遠征することを欲した。神託を伺った彼らに神はアルクマイオーンの指揮のもとに勝利を予言した。

そこでアルクマイオーンは自分の母を罰する前に軍を導くことを欲しなかったにもかかわらず、軍を進めた。というのはエリピューレーはポリュネイケースの子テルサンドロスより例の長衣ペプロスをもらって、自分の子供らもまた軍を

P152進めるように説得したからである。彼らはアルクマイオーンを将に選んで、テーバイに戦を挑んだ。軍に加わった者たちは次のごとくである。(略、武将たちの名の列挙)彼らは先ず周囲の村落を荒廃せしめた後、テーバイ人がエテオクレースの子ラーオダマースに率いられて攻め来った時、勇ましく闘った。

そしてラーオダマースはアイギアレウスを、ラーオダマースをアルクマイオーンが殪した。彼の死後テーバイ人は城壁内に一団となって敗走した。テイレシアースが彼らにアルゴス人には和議の使者を派し、彼ら自身は逃げるようにと言ったので、敵には使者を送り、自分たちは妻子を乗せて市より遁れた。

夜にティルプーサといわれる泉の傍についた時に、テイレシアースはその水を飲んで生を終わった。テーバイ人は遠くに遠くに旅をつづけた後、ヘスティアイアー市を建てて居を占めた。アルゴス人は後テーバイ人の遁走を知って市中に入り、戦利品を集め、城壁を破壊した。

戦利品の一部分とテイレシアースの娘マントーとをデルポイのアポローンに送った。というのは、テーバイを攻略した時に略奪品の中の最もよいものを彼に捧げると誓ったからである。

P153/ 155
(略)
第八~九章 ペラスゴスの後裔 P155-159
 さてここで再びペラスゴス(参照)にたち戻ろう。彼をアクーシラーオスは、我々が仮定したごとく(前出・二・一・一参照を見よ)、ゼウスとニオベーの子と言っているが、ヘーシオドスは大地より生まれたという。

彼とオーケアノスの娘メリボイアより、また他説によればニムフのキュレーネーより、一子リュカーオーンが生まれた。彼はアルカディアー人の王として、多くの女より五十人の息子を得た。(ヒュギーヌス『ギリシア神話集』相互参照
(略、息子たちの名が列挙される)
P156彼らはあらゆる人間よりも高慢不敬であった。ゼウスが彼らの不敬をためそうと日傭労働者の姿に身を似せて近づいた。彼らは彼を客人として招き、年上の兄弟マイナロスの議によって、土地の者の一人の男の子を殺し、その臓腑を犠牲に混じて供した。

ゼウスは<これを嫌悪して>今日トラペズース125と呼ばれる地で机トラペザを倒し、一番年下のニュクティーモスを除き、リュカーオーンとその子供らを雷霆で撃った。

というのは大地が機先を制してゼウスの右手をつかみ、その怒りをしずめたからである。しかしニュクティーモスが王権を継いだ時に、デウカリオーン時代の洪水が起こった(前出・一・七・二参照を見よ)。ある者はこれはリュカーオーンの子らの不敬が原因で生じたといった。

エウメロース126および他のある者は、リュカーオーンにはまた一女カリストーがあったとい。ヘーシオドスは彼女はニムフの一人であると言い、アシオス127はニュクテウスの、ペレキューデースはケーテウスの、娘と言う。

彼女はアルテミスの猟の伴侶であり、女神と

P157 と同じ衣を身に纏い、処女でいることを女神に誓った。しかしゼウスは彼女に恋し、一説によればアルテミスに、一説によればアポローンに、姿を似せて、嫌がる彼女と床をともにした。ヘーラーに気づかれないように女を熊の姿に変えた。しかしヘーラーは彼女を猛獣として射殺するようにアルテミスを説き伏せた。

一説にはアルテミスが、彼女を処女を護らなかったので、射殪したとも言う。カリストーが死んだ時に、ゼウスは赤児をひっさらい、アルカスと名づけ、アルカディアにおいて育てるべくマイアに与えた。そしてカリストーをば星に変え、「熊アルクトス」と呼んだ(ヒュギーヌス『ギリシア神話集』相互参照)。

アルカスとアミュクラースの娘レアネイラ、あるいはクロコーンの娘メガネイラ、あるいはエウメーロスの言によればニムフのクリューソペレイアより、息子のエラトスとアペイダースが生まれた。
(略)
P159
(略)
第一〇~一二章 アトラースの後裔 P159-175
 アトラースとオーケアノスの娘プレイオネーよりアルカディアーのキュレーネーにおいて七人の娘が生まれた。すなわちアルキュオネー、メロペー、ケライノー、エーレクトラー、ステロペー、ターユゲテー、マイアである。

彼女らの中ステロペーをオイノマウスが、メロペーをシーシュポスが妻とした。また二人の娘とポセイドーンが交わった。初めにケライノーと、そして彼女よりリュコスが生まれ、彼をポセイドーンは「至福の人々の島」に住まわせた128

P160第二にアルキュオネーと。彼女は、アポローンと交わってエレウテールの母となったアイトゥーサと息子たちヒュリエウスとヒュペレーノールを生んだ。ヒュリエウスとニムフのクロニエーよりニュクテウスとリュコスが、ニュクテウスとポリュクソーよりアンティオペーが、アンティオペーとゼウスよりゼートスとアムピーオーンが生まれた。また他のアトラースの娘たちとはゼウスが臥床を同じくした。

そこで一番年長のマイアはゼウスと交わってキュレーネーの洞穴中でヘルメースを生んだ。彼は生まれ落ちて最初の襁褓むつきで巻かれ箕の上に置かれたが、抜け出してピエリアーに行き、アポローンが飼っていた牝牛を盗んだ。

そして足跡によって見つからないように、牝牛の足に靴をはかせ、ピュロスに連れて行き、他のものは洞穴に隠したが、二頭は犠牲に捧げた後、皮を岩に釘づけにし、肉は一部は煮、一部は焼いて、食ってしまった。そして速やかにキュレーネーに行った。そして洞穴の前に亀が草を食っているのを見つけた。これを綺麗に清めて、犠牲にした牝牛から取ったガットをその甲に張り、かくして竪琴を作り出し、かつ撥を発明した。

ところがアポローンは牝牛を探し求めつつピュロスに来て、住民に尋ねた。彼らは子供が牛を追っているのは見たが、足跡が見えなかったので、どこに追われて行ったのか言えないと言った。しかしアポローンは占術によって盗人を知り、

P161 キュレーネーのマイアの所に来て、ヘルメースを責めた。彼女は襁褓むつきで巻かれている彼を示した。そこでアポローンは彼をゼウスの所へ連れて行って牝牛の返還を要求した。ゼウスがかえすように命令した時に、ヘルメースは盗んだ覚えはないと言ったが、アポローンがこれを信じないので、彼をピュロスに連れて行き、牝牛を返した。

しかしアポローンは竪琴を聞いてこれと交換に牝牛を与えた。そこでヘルメースはこれを飼いつつ、またシューリンクス笛を作り上げて吹いていた。アポローンはこれも欲しがって、牛を飼っている時に持っていた黄金の小杖を与えた。しかしヘルメースは笛の代わりにこれを得るとともに占術をわがものにしたいと欲した。そして笛を与えて、小石による占術を教わった。ゼウスは彼を自分自身並びに地下の神々の使者に任じた。

 ターユゲテーはゼウスによりラケダイモーンを生んだ。彼の名をとってラケダイモーンとかの地は呼ばれるのである。ラケダイモーンとエウロータース---彼は地より生まれたレレクスと水のニムフたるクレオカレイアの子である---の娘スパルテーよりアミュクラースとアクリシオスと婚したエウリュディケーが生まれた。

アミュクラースとラピテースの娘ディオメーデーよりキュノルテースとヒュアキントスが生まれた。ヒュアキントスは、巷説に従えば、アポローンの少年であって、彼をアポローンは誤って円盤で打ち殺した。

P162キュノルテースよりペリエーレースが生まれた。彼はステーシコロス129の言うところによれば、ペルセウスの娘ゴルゴポネーを娶ってテュンダレオース、イーカリオス、アパレウス、レウキッポスを生んだ。

アパレウスとオイバロスの娘アレーネーよりリュンケウスとイーダースとペイソスが生まれた。しかし多くの人の説によればイーダースはポセイドーンの子と言われている。リュンケウスは眼の鋭いことで衆に優れていたので、地下の物をも見ることを得た。レウキッポスは娘ヒーラエイラとポイベーを生んだ。ディオスクーロイが彼女らを掠って妻とした。彼らの外にアルシノエーが生まれた。彼女とアポローンが交わって、女はアスクレーピオスを生んだ。

しかし一説にはアスクレーピオスの母はレウキッポスの娘アルシノエーではなくて、彼はテッサリアーのプレギュアースの娘コローニスの子であるという。そしてこれによればアポローンはこの女を愛し、直ちに交わったが、彼女は父の意見に反してカイネウスの兄弟イスキュスを好み、彼と交わったという。

アポローンはこれを告げた鴉を呪って、それまで白かったのを黒くし、女をば殺した。彼女が焼かれている時に火葬台より嬰児をひき掠さらって、ケンタウロスのケイローンのところへ連れて行き、子供は彼のところで育てられ間に医術と狩猟の技を教えられた。(ヒュギーヌス『ギリシア神話集』相互参照

そして彼は外科医となり、その術を非常に研鑽進歩させて、ある者の死を妨げたのみならず、死者をもよみがえらせた。

P163 アテーナーよりゴルゴーンの血管から流血した血を得て、左側の血管より流出せる血を人間の破滅に、右側よりのを救済に用い、これによって死者を蘇生させた。彼によって生きかえったと称せられる幾人かの人々を余は見いだしたが、これはステーシコロスがその「エリピューレー」中で言うところによれば、カパネウスにリュクールゴス、「ナウパクティカ」の著者の言うところによればヒッポリュトス、パニュアッシスの言によればテュンダレオース、オルペウス教徒の言によれば、ヒュメナイオス、メレーサゴラースの言によればミーノースの子グラウコス(前出三・三・一を参照)である。(ヒュギーヌス『ギリシア神話集』相互参照

ゼウスは人間が彼より医療の術を獲得して互いに助け合いはしまいかと恐れて、彼を雷霆で撃った。そこでこれに怒ってアポローンはゼウスのために雷霆を造ったキュクロープスらを殺した。

ゼウスは彼をタルタロスへ投げ込もうと思ったが、レートーの乞いによって彼をして一年間人間に仕えることを命じた。それで彼はペライへと、ぺレースの子アドメートスの所に赴いて彼に仕えて牛飼いとなり、すべての牝牛に双生児を生ませるようにした。

しかし一説によればアパレウスとレウキッポスとはアイオロスの子ペリエーレースより、またペリエーレースはキュノルテースより、ペリエーレースよりオイバロスが、オイバロスと水のニムフのパテイアよりテュンダレオース、ヒッポコオーン、イーカリオスが生まれたと言う。

P164ヒッポコオーンよりドリュクレウス、スカイオス、エナロポロス、エウテイケース、プーコロス、リュカイトス、テプロス130、ヒッポトオス、エウリュトス、ヒッポコリュステース、アルキヌース、アルコーンの息子たちが生まれた。

ヒッポコオーンはこれらの息子と力を合わせてイーカリオスとテュンダレオースとをラケダイモーンより追い払った。彼らはテスティオスの所へ遁れ、隣国の人々と戦っている彼の味方をした。

そしてテュンダレオースはテスティオスの娘レーダーを娶った。しかし後にヘーラクレースがヒッポコオーンとその息子たちを殺した時に(前出・二・七・三を見よ)帰国し、テュンダレオースが王国を得た。

イーカリオスと水のニムフなるぺリボイアよりトアース、ダマシッポス、イメウシモス、アレーテース、ペリレオースおよびオデュセウスの妻となった娘のペーネロペーが生まれた。

テュンダレオースとレーダーからはエケモスの妻となったティーマンドラー、アガメムノーンの妻となったクリュタイムネーストラー、さらにアルテミスが不死としたピュロノエーが生まれた。

ゼウスは白鳥の姿となってレーダーと、また同じ夜にテュンダレオースが、交わって、ゼウスからはポリュデウケースとヘレネーが、テュンダレオースからは

P165 カストール[とクリュタイムネーストラー131]が生まれた。

しかし一説には、ヘレネーはネメシスとゼウスの娘である。それというのは、ネメシスがゼウスとの交わりを遁れて鵞鳥に身を変じたところ、ゼウスもまた白鳥の姿となって彼女と交わったからである。

そしてこの交わりによって卵を生んだが、ある羊飼いがこれを聖森の中で見つけて、レーダーの所へ持って来て与えた。それで彼女はこれを箱に入れて保存しておいたところ、時が来て生れ出たヘレネーを自分の娘として育てたということである。

すぐれて美しく育った彼女をテーセウスが掠ってアピドナイへ連れて行った。しかしポリュデウケースとカストールとが、テーセウスが冥府にいる間に軍を進めてその市を攻略し、ヘレネーを取り、テーセウスの母アイトラーを捕虜にして引きたてた。(ヒュギーヌス『ギリシア神話集』相互参照

ヘレネーと結婚せんものとギリシアの王たちがスパルタに赴いた。求婚者たちは次のごとくであった。
(略、オデュセウス、パトロクロスなど)
P166これら大勢の人々を見てテュンダレオースは一人を選べば他の者たちが争いを起こしはせぬかと心配した。しかしオデュセウスが、もしペーネロペーと彼との結婚に力を貸してくれるならば争いが起こらぬ方法を教えようと約束したので、テュンダレオースが彼に助力しようと約すると、もし選ばれた婿が誰か外の者によってこの結婚に関して何か害を蒙った場合には、求婚者たちはすべて助けるようにと誓言させるがよいと言った(ヒュギーヌス『ギリシア神話集』相互参照)。

これを聞いてテュンダレオースは求婚者たちに誓いをさせ、かくてメネラーオスを彼自身で婿に選び、オデュセウスのためにイーカリオスよりペーネロペーを乞うてやった。

 メネラーオスはヘレネーよりヘルミオネーを得、また一説によればアイトーリアーの女奴隷ピエリスよりニーコストラトスを、あるいはアクーシラーオスの言によれば、

P167 テーレーイスよりメガペンテースを、またエウメーロスによればニムフのクノーシアーよりクセノダーモスを得た。

 レーダーより生まれた息子の中カストールは戦争の術を、ポリュデウケースは拳闘の技を励み、その雄々しさにのゆえに二人ともにディオスクーロイ(⁼「ゼウスの子」の意)と呼ばれた。

レウキッポスがメッセーネーによって得た娘たちを妻にせんと欲して、彼女らを奪って妻とした。そしてポリュデウケースとポイベーよりムネーシレオース、カストールとヒーラエイラよりアノーゴーンが生まれた。

アルカディアーより分取品の牛をアパレウスの子イーダースとリュンケウスとともに追いたてた後で、イーダースにその分配を委ねた。彼は一頭の牡牛を四分して、最初に食いつくした者が分取品の半分、第二の者がその残りを得べしと言った。

そして最初に誰よりも早く自分の分を、次に自分の兄弟の分を食いつくし、彼とともに分取品をメッセーネーに追って行った。しかしディオスクーロイはメッセーネーに軍を進めて、その分取品とほかの多くのものをともに追いたてた。

そしてイーダースとリュンケウスとを待伏せしていた。しかしリュンケウスはカストールを見つけてイーダースに知らせ、イーダースはカストールを殺した。しかしポリュデウケースは彼らを追って、リュンケウスをば槍を投げて殺したが、イーダースを追跡中に彼によって石を頭に投げつけられ、気絶してた殪れた。

P168ゼウスはイーダースを雷霆で撃ち、ポリュデウケースを天上に連れ登った。しかしポリュデウケースは、カストールが死骸となっている間は不死を受けることを肯がえんじなかったので、ゼウスは両人に一日おきに神々と人間の間にいることを許した。

ディオスクーロイが神々の所へ去った後に、テュンダレオースはメネラーオスをスパルタに呼び寄せ、彼に王国を譲った。

 アトラースの娘エーレクトラーとゼウスよりイーアシオーンとダルダノスが生まれた。イーアシオーンはデーメーテールに恋して、女神を辱めんとして雷霆にうたれたが、ダルダノスは兄弟の死を痛んでサモトラーケーを棄てて対岸の大陸に来た。

この地をスカマンドロス河とニムフのイーダイアーの子テウクロスが王として支配していた。彼の名によってこの地の住民もまたテウクロイと呼ばれていた。王の客となり、この地の一部と王の娘バテイアを得て、彼は一市ダルダノスを建てた。

そしてテウクロスの死後この地全体をダルダニアーと呼んだ。彼に息子イーロスとエリクトニオスが生まれたが、イーロスは子なくして死に、エリクトニオスが王国を継承し、シモエイスの娘アステュオケーを娶ってトロースを生んだ。彼は王国を継承して、この地をば自分の名によってトロイアーと呼び、スカマンドロスの娘カリロエーを娶って一女クレオパトラー、息子たちイーロス、

P169 アッサコラス、ガニュメーデースを生んだ。ガニュメーデースをその美貌ゆえにゼウスが鷲を用いて掠さらい、天上で神々の酒注ぎとした。アッサコラスとシモエイスの娘ヒエロムネーメーよりカピュスが、カピュスとイーロスの娘テミステーよりアンキーセースが生まれた。

アンキーセースとアプロディーテーが恋の欲情にかられて交わり、アイネイアースとリュロスを生んだが、リュロスは子なくて死んだ。イーロスはプリュギアーに来て、その地で王が開いていた競技が行われているのに出遇い、相撲で勝利を得た。そしてその賞として五十人の少年および同数の少女とを得た。

王は彼に、神託に従って、また斑なの牝牛を与え、それが横になった所に一市を建てるべしと言ったので、牝牛の後に従って行った。牝牛はプリュギアーのアーテーと称する一丘上に来た時、横になった。

イーロスはそこに一市を建てて、これをイーリオンと呼び、自分に何か徴を示されたいとゼウスに祈ったところ、昼間空より天降ったパラディオンがテントの前になるのを見た。それは高さ三キュービットで、その両足は一緒になり、右手を高く槍を、左手には糸巻竿と紡錘つむとを持っていた。

パラディオンに関する話は次のごとくである。アテーナーが生まれた時に、トリートーンの所で育てられたが、彼に一女パラスがあった。両人ともに戦闘の技を励んでいたが、

P170ある時争いとなった。パラスがまさに一撃を与えんとした時、ゼウスが恐れてアイギスを差し出したところ、彼女は驚いて上を見たために、アテーナーに傷つけられて倒れた。

アテーナーは彼女を大いに傷んで、彼女に似せた木像を造り、ゼウスのそばにこれを立てて崇めた。後エーレクトラーが犯された時にゼウスはアーテーとともにパラディオンをイーリオンの地に投じた。

イーロスはこの木像のために神殿を営造して崇拝した。これがパラディオンに関する話である。

イーロスはアドラーストスの娘エウリュディケーを娶り、ラーオメドーンを生んだ。彼はスカマンドロスの娘ストリューモーを、また一説によればオトレウスの娘プラキアーを、また一説によればレウキッペーを娶り、男の子ティートーノス、ラムポス135、クリュティオス、ヒケターオーン、ポダルケース、女の子ヘーシオネー、キラ、アステュオケーを、またニムフのカリュベーよりブーコリオーンを得た。

 ティートーノスを曙エーオースが恋ゆえに掠って、エティオピアに連れて行き、そこで彼と交わって息子エーマティオーンとメムノーンを生んだ。少し前に述べたように、イーリオンがヘーラクレースによって攻略された後(前出二・六・四を見よ)、プリアモスと呼ばれたポダルケースが王となった。そして先ずメロプスの娘アリスベーを娶り、彼女より、一子アイサコスが生まれた。

P171 アイサコスはケプレーンの娘アストロペーを娶ったが、彼女の死を痛んで島と化した。しかしプリアモスはアリスベーをヒュルタコスに与えて、デュマースの娘、あるいは一説にはキッセウスの娘、また他の説によればサンガリオス河とメトーベーの娘であるへカベーを娶った。

彼女に最初にヘクトールが生まれた。第二の赤児が生まれようとした時、へカベーは燃え木を生み、これが全市に燃え拡がって焼く夢を見た。プリアモスはこれをへカベーより聞いて、息子のアイサコスを呼び寄せた。

というのは彼は母の父メロプスより夢占いを教えられていたからである。彼はその子が国の破滅となると言って、赤児を棄てるように勧めた。そこでプリアモスは赤児が生まれると、召使いにイーデーに連れて行って棄てるように渡した。

召使いの名はアゲラーオスと言った。彼に棄てられた赤児は五日の間熊によって育てられた。そしてアゲラーオスは赤児の無事なのを見出した時、それを拾い上げて連れて行き、パリスと呼んで自分の農場で自分の子として育てた。美貌と力によって衆に優れた若者となって、盗賊をうち退け、羊を守ったので、後アレクサンドロス136と綽名せられた。そして後暫くして両親を発見した。

 のちへカベーは娘クレウーサ、ラーオディケー、ポリュクセネー、カッサンドラーを生んだ。カッサンドラーと交わらんと欲してアポローンが予言の術を教える約束をした。彼女は教わりながら交わろうとしなかった。そこでアポローンは彼女の予言の術が人に信じられないようにした。後へカベーは息子たち、(略、息子たちの名の列挙)。トローイロスはアポローンの子であると言われている。

 他の女たちよりプリアモスに息子(略、息子たちと女たちの名の列挙)。

ヘクトールはエーエティオーンの娘アンドロマケーを、アレクサンドロスはケブレーン河の娘オイノーネーを娶った。彼女はレアーより予言の術を学んで、アレクサンドロスにヘレネーを求めて航海(後悔?)せぬようにと予言した。しかし説得出来なかった時に、

P173 もし負傷した時には自分の所に来るように、彼女のみがそれを治癒することができるのだから、と言った。彼はヘレネーをスパルタより奪い去り、トロイアーが攻められている間にピロクテーテースにヘーラクレースの弓で射られた時に、イーデー山上のオイノーネーの所へ帰っていった。しかし彼女は怨みを忘れず、治療を拒んだので、アレクサンドロスはトロイアーに運ばれる途中死んだ。オイノーネーはは後悔して薬を持って行ったが、彼が死骸となっているのを見出した時に、自ら縊れた。

 アーソーポス河はオーケアノスとテーテュースの、またアクーシラーオスの言によればぺーローとポセイドーンの、また一説にはゼウスとエウリュノメーの子である。彼とメトーぺー---彼女はラードーン河の娘であるが---が結婚して、二男イスメーノスとペラゴーン、二十女を生んだ。娘の中の一人アイギーナをゼウスが掠って行った。彼女を探しつつアーソーポスはコリントスに来り、シーシュポスより掠った者はゼウスであることを知った。ゼウスは追いかけて来るアーソーポスに雷霆を投げつけて再び自分の河床に戻らしめたが---このため今日でもこの河床より石炭が得られるのである---アイギーナを当時オイノーネーと呼ばれていたが、今では彼女の名を取ってアイギーナと呼ばれる島に連れ来って交わり、彼女より一子アイアコスを得た。ゼウスはアイアコスがこの島にただ

P174 一人でいるので、彼のために蟻を人間にしてやった137。アイアコスはスケイローンの娘エンデーイスを娶り、彼女より息子のペーレウスとテラモーンが生まれた。しかしペレキューデースは、テラモーンはペーレウスの友であって兄弟ではなく、彼はアクタイオスとキュクレウスの娘グラウケーの子であると言う。後アイアコスは彼と交わりを嫌って海豹に身を変じた、ネーレウスの娘プサマテーと交わって、一子ポーコスを得た。

P175 アイアコスは人間の中で一番敬虔な男であった。それゆえにペロプスがアルカディアー王テュムパーロスとの戦いにおいてアルカディアーを攻略することができなかった時に、友情を装って彼を殺し、その身体を八つ裂きにしてまき散らしたためにギリシアが不作に襲われた時、神々の神託が、もしアイアコスがギリシアのために祈ったならば、ギリシアは現在の災いからのがれるであろうと言ったので、アイアコスは祈りを捧げ、かくてギリシアは不作から免れた。アイアコスは死後プルートーンの所においてさえも尊敬せられて、冥府の鍵をあずかっている。

 ポーコスは競技に優れていたので、兄弟のぺーレウスとテラモーンは彼に対して陰謀をめぐらした。そして籤がテラモーンにあたったので、競技の最中に彼の頭に円盤を投げつけて殺害し、ペーレウスとともに(その身体を)運んで行って、とある森に隠した。しかし殺害の事実が明るみに出たので、アイアコスによって彼らはアイギーナより追放せられた。そしてテラモーンはサラミースへ、(ポセイドーンと)アーソーポスの娘サラミースの子キュクレウスの所へ行った。このキュクレウスはこの島を害していた蛇を退治してその王となったのであるが、子なくして死んだ際に、テラモーンに王国を与えた。彼はペロプスの子アルカトゥースの娘ぺリボイアを娶った。彼に男子がうまれるようにと

P176 ヘーラクレースが祈った時に、その祈りの後に鷲が現われたので、生まれた子にアイアースという名を与えた138。そしてヘーラクレースとともにトロイアーに遠征し、ラーオメドーンの娘ヘーシオネーをその手柄の賞として得(前出・二・六・四を見よ参照)、彼女よりテウクロスが生まれた。

第一二~一三章 アーソーポスの後裔 P175-179
 ⅩⅢ ペーレウスはプティーアーへと、アクトールの子エウリュティオーンの所へ遁れ、彼によって罪を潔められ、彼よりその娘アンティゴネーとその地の三分の一をもらった。そして彼に一女ポリュドーラーが生まれたがこれをペリエーレースの子ポーロスが妻とした。

 そこよりエウリュティオーンとともにカリュドーンの猪狩に赴き、牡猪にむかって投じた投槍がエウリュティオーンにあたり、彼を誤って殺した。そこで再びプティーアーより遁れて、イオールコスへと、アカストスの所に来り、彼によって罪を潔められた(前出・一・八・二を見よ参照)。彼はペリアースのために催された競技に参加して、アタランテーと相撲った。そしてアカストスの妻アステュダメイアはペーレウスに恋し、彼をあいびきの申込みをした。しかし彼を説き落とすことができなかった時に、ペーレウスの妻に彼がアカストスの娘ステロペーと結婚しようとしていると言い送った。これを聞いて彼女は自ら縊れた。そしてアステュダメイアはペーレウスをばアカストスに無実の罪で讒言し、彼が情交を試みた

P177 と言った。アカストスはこれを聞いて、自分が罪を潔めた男を殺すことを欲せず、彼をぺーリオン山中の狩に連れて行った。そこで狩の競争が行われた。ペーレウスは自分の殪した獣の舌を切り取って袋の中に入れたが、アカストスの仲間はこの獣を獲物として、ペーレウスが何の獲物をなかったことを嘲笑った。そこで彼は持っている舌を彼らに示し、これだけ多くの獣を獲たと言った。ぺーリオン山中で眠り入った時に、アカストスは彼を棄て、彼の刀を牛の糞の中に隠して帰った。ペーレウスは起きあがって、刀を探している間にケンタウロス族に捕らえられて、危ういところをケイローンによって救われた。そして彼は刀をも探し出して与えた。

ペーレウスはペリエーレースの娘ポリュドーラーを娶り、彼女の腹より表面上の子供メネスティオスが生まれたが、彼はスペルケイオス河の子である。後彼はネーレウスの娘テティスを妻とした。

彼女と結婚せんものとゼウスとポセイドーンとが争ったが、テミスが彼女より生まれた子供はその父より強くなるであろうと予言したので、彼らは手を引いた(相互参照)。しかし一説によればゼウスが彼女との情交に熱心であった時に、プロメーテウスが、彼女よりゼウスに生まれた子は夫を支配するであろうと言ったと言われ、また一説によれば、テティスはヘーラーによって育てられたためにゼウスと交わることを欲せず、ゼウスは憤って

P178彼女を人間と居をともにするようにしようと欲したのであるという。そこでケイローン(参照)はペーレウスに姿をさまざまに変える彼女をつかまえて、じっと捕らえているように教えたので、ペーレウスは機をねらって彼女を捕え、あるいは火、あるいは水、あるいは獣になる彼女を、元の姿になるのを見るまで、放さなかった。

そしてペーリオン山中で彼女と結婚し、神々は彼女を祝して宴をはり、歌った。そしてケイローンはペーレウスに梣の槍を、ポセイドーンは馬パリオスとクサントスを与えた。この馬は不死であった。

テティスがペーレウスによって赤児を得た時に、これを不死にせんものと、ペーレウスに秘して、夜は火中に隠してその父よりうけついだ死すべき部分を破壊し、昼間はアムブロシアを塗った。しかしペーレウスは彼女を見張り、子供が火の上でもがいているのを見て声をたてた。

テティスは自分の目的を果たすことをはばまれ、幼な子を棄てて水のニムフたちの所に去った。ペーレウスはその子をケイローンの所に連れて行った。ケイローンは彼を受取って獅子と野猪の臓腑および熊の髄で養い、アキレウスと名づけた---それまで彼の名はリギュローンであった。というのは彼は乳房に唇をつけたことがなかったからである139

 ペーレウスはその後イアーソーンおよびディオスクーロイとともにイオールコスを破壊し、
P179 アカストスの妻アステュダメイアを殺し、その四肢を八裂きにして、彼女の身体を通って軍を市中に導いた。

 アキレウスが九歳になった時に、カルカースが彼なくしてはトロイアーは攻略することができないと言ったので、テティスは彼が軍に加われば必ず死ななくてはならぬことを予知し、女装の下に彼を隠し、乙女としてリュコメーデースにあずけた。

そしてそこで育てられるうちにリュコメーデースの娘デーイダメイアと交わり、彼にネオプトレモスと呼ばれた男の子ピュロスが生まれた。しかし秘密が顕われ、オデュセウスはリュコメーデースの所にアキレウスを求め、喇叭ラッパを用いて見破った。かくて彼はトロイアーに赴いたのである。

彼にアミュントールの子ポイニクスが従って行った。彼は自分の父をの妾プティーアーが彼に犯されたという虚偽の訴えをしたために父に盲目にされた。しかし、ペーレウスが彼をケイローンの所へ連れて行き、彼によって治されたポイニクスをペーレウスはドロプス人の王としたのである。

 またメノイティオスとアカストスの娘ステネレー、あるいはぺレースの娘ペリオーピス、あるいはピロクラテースの言によればペーレウスの娘ポリュメーレーの子パトロクロスも彼に従って行った。

P180彼はオプースにおいて骰子遊びをしている間に喧嘩して、アムピダマースの子クレイトーニュモス140を殺し、父とともに遁れてペーレウスの家に住まい、アキレウスの少年となったのである。

第一四~一五章 アテーナイの王 P180-191
ⅩⅣ 大地の子で、人間と大蛇の混合せる身体をもっていたケクロプスはアッティカ初代の王であって、それ以前はアクテー141と呼ばれていたこの地を自分の名によってケクロピアーと名づけた。

彼の時代に、人の言うところによれば、神々がおのおの自己に特有の崇拝を受けるべき都市を獲得することに決した。そこでポセイドーンが先ずアッティカに来て、その三叉の戟を以てアクロポリスの中央をうち、今日エレクテーイス142と呼ばれている海を出現せしめた。

彼の後でアテーナーが来て、ケクロプスを彼女の獲得の証人とし、今日パンドロセイオン143において示されているオリーヴの木を植えた。

この地の争奪が両神の間に生じた時に、ゼウスはニ神を引き分けて、ある人々の言うように、ケクロプスとクラナオスでも、エリュシクトーンでもなく、十二神を(アテーナーとポセイドーン144)審判役とした。そして彼らの裁きによって、ケクロプスが最初にオリーヴの木を植えたと証言したので、この地はアテーナーのものと判決された。

そこでアテーナーは自分の名をとってこの市をアテーナイと呼んだが、ポセイドーンは大いに怒って、

P181 トリアシオンの野を水びたしにし、アッティカを海中に浸した。
 ケクロプスはアクタイオスの娘アグラウロスを娶って、子なくして世を去った一子エリュシクトーンと、娘たちアグラウロス、ヘルセー、パンドロソスを得た。アグラウロスとアレースよりアルキッペーが生まれた。

彼女をポセイドーンとニムフのエウリュテーの子ハリロティオスが犯さんとするところをアレースに見つけられて殺された。ポセイドーンの(訴えにより)十二神が裁判官となってアレースは「アレースの丘」において裁かれ、無罪となった145

ヘルセーとヘルメースの子ケパロス146---彼に曙エーオースが恋して、掠い、シリアにおいて交わって一子ティートーノスを生み、その子にパエトーンが生まれ、その子がアステュノオス、その子がサンドコスである。

彼はシリアよりキリキアーに赴き、ケレンデリス市を建て、ヒュリアーの王メガッサレースの娘パルナケーを妻とし、キニュラースを生んだ。このキニュラースは人々とともにキュプロスに赴いてパポスを建設し、そこでキュプロス人の王ピュグマリオーンの娘メタルメーを娶り、オクシュポロスとアドーニスを、さらに娘オルセディケー、ラーオゴレー、プライシアーを生んだ。

これらの娘はアプロディーテーの怒りによって異邦人と床をともにし、エジプトにおいて生を終わった。

P182アドーニスは未だ子供の時にアルテミスの怒りによって狩りの最中猪に傷つけられて死んだ。しかしヘーシオドスは彼をポイニクスとアルペシボイアの子と言い、パニュアッシスは、娘スミュルナの父たるアッシリアの王テイアースの子であるという。

この女は、アプロディーテーを崇拝しなかったので、その怒りによって父に対する恋に襲われ、自分の乳母を共謀者として、何も知らぬ父と十二夜の間臥床をともにした。しかし彼はこれを知るや刀を抜いて彼女を追った。女はまさに捕えられんとして、神々に姿を消すことを祈った。

神々は憐れんでスミュルナ(⁼ミュラ「没薬」)と呼ぶ木にその姿を変えた。十カ月の後にその木が裂けていわゆるアドーニスが生まれた。アプロディーテーは彼の美貌のゆえに未だ幼い彼を神々に秘して箱の中に隠し、ペルセポネーにあずけた。しかしかの女神は彼を見た時に、かえそうとしなかった。ゼウスは審判の結果一年を三分し、アドーニスはその三分の一を自分の、三分の一をペルセポネーの、三分の一をアプロディーテーの所に留まるべく命じた。

しかしアドーニスは自分の分をもアプロディーテーに加え与えた。後アドーニスは狩猟中に猪に突かれて死んだ。

 ケクロプスの死後大地より生まれたクラナオスが(王となった)。彼の時にデウカリオーン時代の洪水が起こったと言われる(前出・三・八・ニを見よ参照)。彼はミュネース147の娘ぺディアスを

P183 ラケダイモーンより妻に迎え、クラナエー、メナイクメー、アッティスを生んだ。アッティスがまだ処女で死んだ時にクラナオスはこの地をアッティスと名づけた。

 クラナオスを追い払ってアムピクテュオーンが王となった。彼は一説にはデウカリオーンの、一説には地より生まれたものと言われる。彼が十二年王座にあった後、エリクトニオスがこれを追放した。彼は一説にはヘーパイストスとクラナオスの娘アッティスの、また一説にはヘーパイストスとアテーナーの子であるという。その次第は次のごとくである。

アテーナーが武器を作る目的でヘーパイストスの所へ赴いた。ところが彼はアプロディーテーに棄てられていたので、アテーナーへの欲情の虜となり、女神を追いかけ始めた。女神は逃げた。非常な苦労の後に---というのは彼は跛であったからである---女神に近づき、交わらんとした。しかし彼女は慎ましやかな処女であるから、彼に応ぜず、彼は女神の脚に精液をまいた。彼女は憤って、毛でこれを拭きとり、地に投げた。彼女が遁れ、精種が大地に落ちた時に、エリクトニオスが生まれた。彼をアテーナーは不死にせんものと神々に秘して育てた。そして彼を箱に入れて、ケクロプスの娘パンドロスに、箱を開くことを禁じた後、あずけた。しかしパンドロソスの姉妹らは好奇心に駆られて箱を開き、赤児を巻いている大蛇を見た。一説によれば彼女らはその大蛇によって滅ぼされたとも言い、

P184また一説によればアテーナーの怒りのために気が狂い、アクロポリスより投身したとも言う(ヒュギーヌス『ギリシア神話集相互参照)。アテーナー自身によってこの境内148で育てあげられて、アムピクテュオーンを追放し、アテーナイの王となり、アクロポリスになるアテーナーの木像を立て、パンアテーナイア祭を創設し、水のニムフなるプラークシテアーを娶り、彼女の腹より一子パンディオーンが生まれた。

 エレクトロニクスが死んで、同じアテーナイの境域に葬られた後、パンディーオーンが王となった。彼の時代にデーメーテールとディオニューソスがアッティカに来たのである。しかしデーメーテールをばケレオスがエレウシースへ、またディオニューソスをばイーカリオスが受け入れた。

イーカリオスはディオニューソスより葡萄の木の枝を得、醸造の術を教わった。そして神より得た恵みを人類に与えんものと、ある羊飼いたちの所に来た。彼らはその飲物を味い、かつ水を混ずることなし149に甘いので大いに飲んだ後に、毒を盛られたと思って彼を殺した。

しかし、翌日真実を知って彼を葬った。イーカリオスの娘エーリゴネーが父を尋ねて探していると、マイラと呼ぶ、なれて、イーカリオスに従っていた犬が彼女に死骸を示した。そして彼女は父を傷んで自ら縊れた(ヒュギーヌス『ギリシア神話集』相互参照)。

 パンディーオーンは自分の母の姉妹ゼウクシッペーを妻とし、娘たちプロクネーとピロメーラーと、
P185 双生児エレクテウスとブーテースを得た。国境の問題についてラブダコスと戦争が生じた時、トラーキアよりアレースの子テーレウスに援助を頼み、彼とともに戦さに勝利を得た後、テーレウスに自分の娘プロクネーを与えた。

テーレウスは彼女の腹より一子イテュスを得たが、ピロメーラーに恋し、プロクネーが死んだと称して彼女を犯した。というのは彼女を田舎に隠していたからである。後ピロメーラーを妻として床をともにし、彼女の舌を切り取った。しかし彼女は長衣に文字を織り込んで、これによってプロクネーに自分の不幸を告げた。

そしてプロクネーは自分の姉妹を探し出し、自分の子のイテュスを殺し、煮て、何も知らないテーレウスの食膳に供した。そして姉妹とともに大急ぎで逃げた。

テーレウスはこれを知って、斧を引っつかむや後を追った。彼女らはポーキスのダウリアーにおいて捕らえられんとして、神々に鳥に変ぜられんことを祈り、プロクネーは夜鶯に、ピロメーラーは燕となった。テーレウスもまた鳥に変ぜられて、やつがしらとなった。(ヒュギーヌス『ギリシア神話集』相互参照

ⅩⅤ パンディーオーンが死んだ時、その子供らは父の遺産を分割し、王権をエレクテウスが、アテーナーとポセイドーン・エレクテウスの神官職をブーテースが得た。エレクテウスはプラシモスとケーピーソスの娘ディオゲネイアの娘プラークシテアーを娶り、息子

P186ケクロプス、パンドロース、メーティオーン、娘プロクリス、クレウーサ、クトニアーおよびボアレースが掠ったオーレイテュイアを得た。

 クトニアーをブーテースが、クレウーサをクスートスが、プロクリスデーイオーンの子ケパロスが娶った。プロクリスは黄金の冠をもらってプテレオーンと臥床をともにし、ケパロスに見てうけられて、ミーノースの所に遁れた。

彼は彼女に恋して、これと交わるべく説得を試みた。しかしいかなる女もミーノースと交わったならば、その女は生きて助かることができなかった。というのは、パーシパエーが、ミーノースの多くの女と床をともにしたので、彼を魔法にかけ、かくて他の女と枕を交わすごとに彼は獣をその関節に放射し、かくして女たちは死んだからである。

しかし彼は速い犬と真直ぐに飛ぶ投槍とを持っていたので、これをもらう条件で、プロクリスはキルケーの根を彼を無害にするべく与えた後に、彼とともに狩りに赴いた。というのは彼女は狩りが好きだからである。彼女が繁みの中に獲物を追っている時に、ケパロスは知らずして槍を投じ、プロクリスにあてて殺してしまった。そしてアレースの丘で裁かれ、永遠の追放の刑を宣せられた。

 イーリッソス河の傍らで遊んでいるオーレイテュイアをボレアース(⁼「北風」)が掠って、
P187 交わった。彼女は娘クレオパトラーとキオネー、息子は有翼のゼーテースとカライスを生んだ。彼らはイアーソーンとともに航海に出て、ハルピュイアを追う間に死んだ(前出・一・九・ニを見よ)。しかしアクーシラーオスはテーノスにおいてヘーラクレースに殺されたのだと言っている。

クレオパトラーをピーネウスが娶り、彼に彼女から息子プレークシッポスとパンディーオーンが生まれた。これらのクレオパトラーからの息子を得ながら、ダルダノスの娘イーダイアーを娶った。彼女は先に生まれた子供らが自分を犯したとピーネウスに偽って訴え、ピーネウスはこれを信じて両人を盲目にした。しかしアルゴナウタイの人々はボレアースとともに通過した折に彼をこらしめた150

キネオーはポセイドーンと交わった。彼女は父に隠れてエウモルポスを生んだが、露見せぬように子供を海の深みに投じた。しかしポセイドーンが拾いあげてエティオピアに連れ行き、彼とアムピトリーテーの娘ベンテシキューメーに育てるように渡した。

彼が成長した時に、ベンテシキューメーの夫は自分の二人の娘の一方を彼に与えた。しかし彼は妻の姉妹を犯さんと試み、このため追われて子供のイスマロスとともにトラーキア王テギュリオスのもとに来た。

王は彼の息子に自分の娘をめあわせた。後テギュリオスに対して悪企みをしていることが露見し、エレウシース人の所へ遁れ、彼らと友誼を結んだ。

Pしかし後イスマロスの死後、テギュリオスに迎えられて赴き、以前の争いを水に流し、王国を継承した。アテーナイ人とエレウシース人との間に戦いが起きた時に、エレウシース人と呼ばれて、トラーキアの大軍とともに彼らの味方となって戦った。アテーナイ人がいかにして勝利を得ることができるかを神に問うたエレクテウスに対して、神は娘の中の一人を殺したならば、戦いに成功するであろうと答えた。

そして彼が最も年少の娘を殺した時、他の娘たちもまた自害した。というのは、ある人々の言によれば、彼女らは互いに一緒に死のうと誓っていたからであると。娘の殺害の後に戦闘が生じた時、エレクテウスはエウモルポスを殺したが、ポセイドーンがエレクテウスとその家とを破壊したので、エレクテウスの長子ケクロプスが王となり、エウパラモスの娘メーティアドゥーサを娶り、一子パンディーオーンを得た。

このパンディーオーンはケクロプスの後に王となって支配しているうちに、メーティオーンの息子たちのために内乱の裡に国を追われ、メガラのピュラースの所に赴き、彼の娘のピュリアーと結婚した。

そして後この市の王座にさえ据えられた。というのはピュラースは父の兄弟のピアースを殺し、王国をパンディーオーンに与え、自分は人々ともにペロポネーソスに赴いて、一市ピュロスを建設したからである。

P189 パンディーオーンがメガラにある間に、息子たちアイゲウス、パラース、ニーソス、リュコスが生まれた。しかしある人々はアイゲウスをスキューリオスの子であるが、パンディーオーンが自分の子としたのであるという。

パンディーオーンの死後彼の子供らはアテーナイに軍を進めてメーティオーンの一族を追い払い、その王国を四つに分った。しかし全権力をアイゲウスが保持した。彼は最初にホプレースの娘メーターを、次にレークセーノールの娘カルキオペーを娶った。

しかし子供ができなかったので、彼は兄弟を恐れてピューティアー(=「デルポイ」)に赴き、子供を得る方法をについて神託を乞うた。ところで神は彼に答えた。
酒袋の突き出でたる口を、おお人の中にていともすぐれたる者よ、
解くなかれ、アテーナイの頂に至りつくまで
しかし彼は神託の意味をはかりかね、アテーナイへと帰途についた。そしてトロイゼーンを通った時に、ペロプスの子ピッテウスの客となった。ピッテウスはこの信託の意を覚って、彼を酔わしめ、自分の娘アイトラーとともに寝いねしめた。しかし同じ夜にポセイドーンもまた彼女に近づいた。

アイゲウスはアイトラーに、もし男子が生んだならば、誰の子か言わずに育てるように命じ、とある岩の下に刀とサンダルとを残しおき、子供が
P181その岩を転がしのけて、これらの物を取ることができた時、その時にこれらの品物とともに彼を送り出すようにと言った。

 しかし彼自身はアテーナイに来り、パンアテーナイア祭の競技を祝ったが、そこでミーノースの子アンドロゲオースがすべての者に勝った。アイゲウスは彼をマラトーンの牝牛退治にやったところ、牝牛のために殺された。

しかし一説には、彼はテーバイへとラーイオスを祭るための競技に参加すべく赴く途中、嫉妬のために競技の相手に待伏せされて殺されたと言う。ミーノースは彼の死の報知がもたらされた時、パロスにおいて優雅の女神カリテスたちに笛、冠なしで犠牲を供するのである。

暫く後、海上の支配者たる彼は、艦隊をもってアテーナイを攻め、パンディーオーンの子ニーソスの支配下にあったメガラを攻略し、オンケーストスよりニーソスを援けに来たヒッポメネースの子メガレウスを殺した。

ニーソスもまた娘の裏切りによって殪れた。彼には頭の真中に柴色の毛が一本あり、これが抜かれた時に彼は死ぬであろうという神託があった。彼の娘スキュラーはミーノースに恋し、その毛を抜き取った。ミーノースはメガラをくだし、かの娘をばその足を船の艫につないで溺死させた。

P191  戦が長引いて、アテーナイを攻略することができなかった時に、ミーノースはアテーナイ人を罰することを得るようにゼウスに祈った。そこで市に飢饉と疫病が襲ったので、先ず初めにアテーナイ人は、古い神託によってヒュアキントスの娘アンテーイス、アイグレーイス、リュタイアー、オルタイアーをキュクロープスのゲライストスの墓で殺した。

これらの娘の父ヒュアキントスはラケダイモーンより来ってアテーナイに住んでいたのである。しかしこれがなんの役にも立たなかったので、遁れる方法を神に求めた。神はミーノースが選ぶいかなる要求をもみたすようにと答えた。

そこでミーノースに使者を立てて、彼の要求にまかせた。ミーノースは彼らに七人の少年と同数の少女を武器を持たずにミーノータウロスの餌食に送ることを命じた。これは迷宮内に閉じこめられていて、この中に入った者は外に出ることができなかった。

というのは多くの折れ曲がった道が人の知らない外への道を閉じていたからである(前出・三・一・四を見よ)。それを造ったのはメーティオーンの子エウパラモスとアルキッペーの子ダイダロスであった。

彼は最も優れた建築師であり、神像の最初の発明者であったからである。この男は弟子で自分の姉妹ペルディクスの子ターロスを、その天賦の才によって自分を凌駕しはしまいかと恐れて、アクロポリスより投げ落とし、アテーナイより遁れた。というのは、タロースは蛇の顎を見出し、細い木を

P192これによって鋸引きにしたからである。死体が見出され、ダイダロスはアレースの丘で裁かれて有罪の判決をうけた後に、ミーノースの所へ遁れた。そしてそこでポセイドーンの牝牛に恋したパーシパエーと協力して木製の牝牛を考案し、迷宮を造り、そこへアテーナイ人は毎年七人の少年と同数の少女をミーノータウロスの餌食として送ったのである。

第一六章 テーセウス P192-
ⅩⅥ アイトラーよりアイゲウスの子として生まれたテーセウスは、成長した時例の岩を押しのけて、サンダルと刀を取りあげ、徒歩でアテーナイへと急いだ。そして悪人どものはびこっていたこの道を掃討した。

というのは、まず最初にヘーパイストスとアンティクレイアの子で、その手にしていた棒から「棒の男」と綽名されていたペリペーテースをエピダウロスで殺した。この男は足が弱かったので鉄棒を手にしており、それによって通行人を殺したからである。この棒を彼より奪ってテーセウスは持って歩いた。

第二にポリュペーモーンとコリントスの娘シュレアーの子シニスを殺した。この男は松曲男まつまげと綽名されていた。というのは、コリントスの地峡に居を構えて、通行人に松の木を曲げさせて、じっと持たせたからである。彼らは、しかし、力足らずして、これをなし得ず、木によって投げあげられて、哀れにも命を失った。

この方法でテーセウスもまたシニスを殺した。

P193 『ビブリオテーケー』摘要 P193-241
P194
第一章 テーセウス(第三巻の続き)
第二章 ペロプスの後裔
第三章 ホメーロス「イーリアス」以前のトロイアー物語
第四章 「イーリアス」
第五章 「イーリアス」以後のトロイアー物語
第六章 帰還物語(ノストイ)
第七章 「オデュセイア」とその後日譚
 第三番目にクロミュオーンにおいて、それを育てた老婆の名をとってパイアと呼ばれた牝の猪を殺した。一説にはこれはエキドナとテューポーンの子であると言う。第四にペロプスの、一説にはポセイドーンの、子と言われるコリントス人スケイローンを殺した。

これはメガラの地において彼の名によってスケイローニダイと呼ばれる岩を占拠し、通行人に自分の足を洗わせて、洗っている中に彼らを深みに投げ入れ、巨大な亀の餌食としていた。テーセウスは彼の足を引っつかんで、(海に151)投げ込んだ。

第五にエレウシースにおいてブランコスとニムフのアルギオペーの子ケルキュオーンを殺した。これは通行人に相撲を強いて、相撲ってる間に殺したのである。テーセウスは彼を高く持ちあげ、大地に投げつけて微塵とした。

第六にダマステースを殺した。彼をある人々はポリュペーモーンと呼んでいる。これは道の傍らに家を持っていて、一つは小さな、一つは大きな二つのベッドをしつらえ、通行人を客に招じ、小さい者は大きいベッドに寝かせてベッドと同じ大きさになるように槌で打ち延ばし、大きい者は小さいほうのベッドに寝かせてベッドの外にはみ出ている身体の部分を鋸で引き切ったのである。

 かくてテーセウスはこの道を掃蕩してアテーナイに来た。メーディアはその時アイゲウスの妻となっていたが、彼に対して悪企みを計り、テーセウスがアイゲウスに対して陰謀 P196 を企てているから用心するようにと説いた。アイゲウスは自分の子供とは知らずに、彼を恐れて、マラトーンの牝牛退治にやった。しかしテーセウスが牛を殺した時に、アイゲウスはその同じ日にメーディアより毒薬を受取って、彼に供した。

しかしまさにその飲物が彼に供せられんとした時に、テーセウスは父にあの刀を贈物にした。アイゲウスはこれを認め、彼の手より盃を叩きのけた。そしてテーセウスは父に認められ、陰謀を知ってメーディアを追い払った。

 そして彼はミーノータウロスへの第三番目の貢物の中に加えられた。しかし一説によれば彼は自ら進んで身を供したという。その船が黒い帆を持っていたので、アイゲウスは子供に、もし生きて帰ったならば白い帆を船に張るように命じた。

クレータに来た時、ミーノースの娘アリアドネーは彼に恋心を抱き、もし彼女をアテーナイに連れて行って妻にとしてくれるならば、援助しようと申し出た。テーセウスは誓いをしてこれに同意したので、彼女はダイダロスに迷宮の出口を教えるように頼んだ。

彼の教えに従ってテーセウスが入る時に糸玉を与えた。テーセウスはこれを扉に結びつけて、引きつつ内に入った。ミーノータウロスを迷宮の一番端の部分に見出し、これを拳で打って殺し、糸玉を引きつつ再び外に出た。そして夜の間にアリアドネーおよび子供たちとともにナクソスについた。

P197その地でディオニューソスがアリアドネーに恋をして、彼女を奪い、レームノスに連れて行って交わった。S(そしてトアース、スタピュロス、オイノピオーン、ペパレートスを生んだ。)

 テーセウスはアリアドネーのために悲しんで港に着く時船に白い帆を張るのを忘れた。アイゲウスはアクロポリスよりその船が黒い帆を持っているのを見て、テーセウスが死んだものと思い、身を投じて世を去った。テーセウスはアテーナイの統治権を継承し、S(その数五十人のパラースの子供らを殺した。同じく彼に彼に反対せんとした者は彼に殺され、彼は全支配権を一人で掌握した。)

ミーノースはテーセウスとその仲間の逃亡を知って、ダイダロスに罪ありとし、彼とミーノースの女奴隷ナウクラテーとの間に生まれた子イーカロスを迷宮内に幽閉した。

彼は自分と子供のために翼を作りあげ、飛びあがらんとする時に、翼が太陽のためにその膠が溶けて放れないように高みを、また翼が湿気のために放れないように海の近くを、飛ばぬように、と子供に命じた。しかしイーカロスは父の命を無にして、夢中になってしだいに高く飛んだ。そして膠が溶けて、彼の名によってイーカリアーと呼ばれている海に落ちて死んだ。(しかしダイダロスはシシリのカミーコスに無事に着いた152。)ミーノース

P198 はダイダロスを追い、探索しつつあらゆる地に巻き貝を持ち来り、その貝に糸を通した者に多くの褒美を与えると約束した。この方法によってダイダロスを見つけ出すことができると考えたのである。

シシリのカミーコスへ、ダイダロスの隠れているコーカロスの所に来て、その貝を示した。コーカロスはこれを受取って、糸を通す約束をし、ダイダロスに渡した。彼は蟻に糸を結びつけ、貝に孔をあけて蟻にその中を通らせた。ミーノースは貝に糸が通されているのを見て、彼の所にダイダロスのいることを知り、直ちに彼の引渡しを要求した。コーカロスは引き渡す約束をした後、彼を歓待した。しかしミーノースは入浴の後コーカロスの娘たちによってなきものとされた153。しかし一説によれば煮えたった(湯を154)あびせられて死んだという。

 テーセウスはヘーラクレースとともにアマゾーンに対し遠征し、アンティオーぺーを、また一説にはメラニッペー、シモーニデース155によればヒッポリュテーを、奪った。それでアマゾーンたちはアテーナイに軍を進めた。そしてアレースの丘の付近に陣を張った。彼女らをテーセウスはアテーナイ人とともに破った。このアマゾーンより一子ヒッポリュトスを得たにもかかわらず、その後デウカリオーンよりミーノースの娘パイドラーを得た。

P199 S(彼女との結婚が行われている最中に前にテーセウスと結婚したアマゾーンがアマゾーンたちとともに武装して現われ、宴に集まった客人たちを殺そうとした。しかし彼らは急ぎ扉を閉じ、彼女を殺した。しかし一説によれば彼女は戦闘の間にテーセウスの手にかかって殪れたという)。

パイドラーはテーセウスに二子アカマースとデーモポーンとを生んだ後、かのアマゾーンの子、すなわちヒッポリュトスに恋し、自分と交わらんことを乞うた。しかし彼はすべての女性を嫌っていたので、情交を避けた。

パイドラーは、彼が父に訴えることを恐れ、自分の寝室の扉を破り、衣を引き裂き、ヒッポリュトスが暴行を働いたと偽りの訴えをなした。テーセウスはこれを信じて、ポセイドーンにヒッポリュトスが滅ぼされんことを祈った。

神は、ヒッポリュトスが戦車に乗って走りつつ海辺を駕している時に、浪間より牝牛がを放った。馬が恐れ騒いだので、戦車は粉微塵となった。そして(手綱に156)からまれてヒッポリュトスは引きずられて死んだ。しかしパイドラーは自分の恋情が露見した時に、自ら縊れた。(ヒュギーヌス『ギリシア神話集』参照

 イクシーオーンはヘーラーに恋して、彼女を犯さんとした。ヘーラーがこれを告げた時、ゼウスは事の真相を知らんと欲して、雲をヘーラーの姿に似せて彼の横に寝かせた。そしてヘーラーと交わったと誇っているイクシーオーンを車輪に縛りつけ、彼は空中に風によって引き廻され、かくてかかる罰をうけている。そして「雲」はイクシーオーン

P200 によってケンタウロスを生んだ。

 (テーセウスは、ペイリトゥースがケンタウロスに対して戦った時に、ペイリトゥースの味方をした。というのは、ペイリトゥースがヒッポダメイアに求婚した時に、ケンタウロスたちを、彼女の親族であるというので馳走した。しかし酒に慣れていなかった彼らは、鯨飲して酔い、花嫁が連れて来られた時に、彼女を犯そうと試みた。しかしペイリトゥースはテーセウスとともに武具に身をかためて闘い、テーセウスは彼らの多くを殺した157。)

カイネウスはペイリトゥースとゼウスの娘と結婚する協定をなし、自分のためにはスパルタより十二歳になったヘレネーを彼とともに奪い、ペイリトゥースのためには、ペルセポネーを妻に得んものと、冥府に下った。

ディオスクーロイがラケダイモーン人およびアルカディアー人とともにアテーナイを攻略し、ヘレネーおよび彼女とともにピッテウスの娘アイトラーを捕虜として連れ去った。しかしデーモポーンとアカマースは遁れた。

P201ディオスクーロイはメネステウスを連れ戻してアテーナイの支配権を彼に与えた。テーセウスはペイリトゥースとともに冥府に赴き、だまされた。そして地獄王ハーデースは彼らを大いに歓待するかのごとく装って、まず忘却の椅子に坐るようにと言った。

この椅子に彼らはくっついてしまい、大蛇によって巻きつけられた。それでペイリトゥースは地獄に縛されて留まったが、テーセウスはヘーラクレースが連れ戻って、アテーナイに送った(前述)。そこより彼はメネステウスに追われ、リュコメーデースのもとに来た。リュコメーデースは彼を深い穴に投げ落として殺した。

第二章 ペロプスの後裔
 タンタロスは地獄において自分の頭上には岩がかかり、彼は常に湖中にあり、両肩には湖水の傍らに実のなった木が生えているのを見ながら、罰せられている。水は彼の顎に触れているが、これを飲もうとすると乾いてしまい、果実は取ろうと欲すると風で木が果実もろとも高く吹きあげられるのである。

一説によれば彼のこの罰の原因は神々の秘密を人にしゃべり、アムブロシアを仲間に分ち与えんとしたことにあるという。

 ブロテアースは狩人であったが、アルテミスを崇拝しなかった。そして火も彼を傷つけることが出来ないと言い言いしていた。それで後狂って自ら火に投じた。

 ペロプスは神々の宴において殺されて煮られた結果、生きかえった時には以前よりも美しくなり、

P202 美貌衆に優れ、ポセイドーンの少年となった。神は彼に有翼の戦車を与えた。これは海を通って走る際にも車軸は濡れることがないのであった。ピーサの王オイノマオスには娘ヒッポダメイアがあったが、一部の人々の言うごとくに彼女を愛していたためか、あるいは彼女と結婚した男の手にかかって死ぬという神託があったためか、誰も彼女を妻にかち得なかった。

というのは父は彼女に自分と交わるように説き伏せ得なかったし、求婚者たちは彼に殺されたからである。というのは彼はアレースからもらった武具と馬とを持っていて、求婚者に結婚を賞として出し、その条件は求婚者はヒッポダメイアを自分の車に乗せてコリントス地峡まで逃げ、一方オイノマオスは武装して直ちに追跡し、追いついた時には彼を殺し、逃げおおせた者がヒッポダメイアを妻とするというにあったからである。

かくして多くの求婚者、一説には十二人を殺した。そして求婚者の首を切り取って、自分の家に釘づけにしておいた。

 そこへペプロスもまた求婚に赴いた。彼の美貌を見てヒッポダメイアは彼に恋心を抱き、ヘルメースの子ミュルティロスに援助するように説いた。ミュルティロスはオイノマオスの御者であった。そこでミュルティロスは、彼女を愛していて、彼女の意を迎えんことを欲し、車輪の轂に轄を差し込まず、かくしてオイノマオスは競争に敗れ、手綱にからまれ、

P203 引きずられて死ぬようにした。しかし一説には彼はペロプスに殺されたと言う。彼は死に際してミュルティロスの奸計を知って、彼がペロプスの手にかかって殪れるようにと呪った。

 そこでペロプスはヒッポダメイアを得、ミュルティロスを従えてある地を通過の際、喉の渇いた妻のために水を持参すべく、少しくその場を去った。ミュルティロスはこの間に彼女を犯そうとした。これを彼女より聞いてペロプスは、ゲライストス岬で、その名をとってミュルトーオン海と呼ばれる海へミュルティロスを投じた。

ミュルティロスは投げ込まれる時にペロプスの子孫に呪いをかけた。ペロプスはオーケアノスに赴いてヘーパイストスによって罪を潔められた後、エーリスのピーサに帰り、それ以前はアーピアーおよびペラスギオーティスと呼ばれ、自分の名によってペロポネーソスと呼んだ所を平らげて後オイノマオスの王国を獲得した。

 ペロプスの子のピッテウス、アトレウス、テュエステースその他があった。アトレウスの妻はカトレウスの娘アーエロペーであったが、彼女はテュエステースを愛していた。アトレウスはある時自分の羊の中でもっとも美しいものをアルテミスに捧げると誓ったが、黄金の仔羊が現われた時に、その誓いをおろそかにしたと伝えられる。彼はこれを絞め殺し、

P204 箱に収め、その内に保存した。これはアーエロペーがテュエステースと姦通して、彼に与えた。というのは、ミュケーナイ人にペロプスの子を王に選ぶべしという神託があり、彼らはアトレウスとテュエステースとを招いたからである。そして王国に関して議論が生じた時、テュエステースは黄金の仔羊の所有者が王国を有すべきであると民衆に布告した。

アトレウスがこれに同意した時、彼はその羊を示して王となった。しかしゼウスはヘルメースをアトレウスに遣わして、もし太陽が逆の道を取ったならば、アトレウスが王になるという協約をテュエステースになすべしと言った。テュエステースがこれに同意した時、太陽は東に沈んだ。かくてこの神がテュエステースの横領を証したので、王国をアトレウスが獲得し、テュエステースを追放した。

しかし後姦通を知って、和睦の使者を送って彼を招いた。そして友のごとく装って、テュエステースが来た時に、彼が水ニムフより得た子供たち、アグラオス、カリレオーン、オルコメノスを、彼らがゼウスの祭壇において命乞いをしたにもかかわらず、殺害し、八裂きにし、煮て、身体の端の部分を除いて、テュエステースに供し、彼が飽食した時に、端の部分を示し、そして国外に放逐した。テュエステースはあらゆる手段を講じてアトレウスに復讐せんとし、このことに関して神託を求め、そして自分の娘と交わって子を得たならば、という答えを得た。そこでその

P205 その通りに行い、娘よりアイギストスを得た。アイギストスは成長してテュエステースの子であることを知った時、アトレウスを殺して王国をテュエステースに復旧してやった158

S(アガメムノーンはミュケーナイ人を支配して、テュンダレオースの娘クリュタイムネーストラーを、その前の夫たるテュエステースの子タンタロスをその子もろとも殺害して、妻となし、そして彼に一男オレステースと娘たちクリューソテミス、エーレクトラー、イーピゲネイアが生まれた。一方メネラーオスはヘレネーを娶り、テュンダレオースが彼に王国を与えたので、スパルタに君臨した。(前出・三・一一・二を見よ参照

第三章 ホメーロス「イーリアス」以前のトロイアー物語
しかし彼アレクサンドロスがヘレネーを奪った。これは一説によればヨーロッパとアジアが戦いに入って、自分の娘が有名になるようにというゼウスの意によっていると言われている。これら中の一つの原因によって)争いの女神エリスがヘーラー、アテーナー、アプロディーテーに美の賞として林檎を投じ、ゼウスは彼女らをアレクサンドロスによって審判されるべく、イーデー山中の彼の所に導くようにヘルメースに命じた。女神たちはアレクサンドロスに贈物を与えると約束をし、ヘーラーは、もしあらゆる女にまさっているとされた時には、全人類の王となることを、アテーナーは戦さにおける勝利を、アプロディーテーはヘレネーとの

P206 結婚を、約した。彼はアプロディーテーを選び、ペレクロスが建造した船でスパルタへと出帆した。九日の間メネラーオスの所で歓待せられた後、十日目にメネラーオスがその母の父カトレウスの葬を行うべくクレータに旅だった時、ヘレネーを自分とともに出奔するように説き伏せた。彼女は九歳になるヘルミオネーを後に残し、大部分の財宝を船に積み込み、夜彼とともに海に出た。しかしヘーラーが彼らに大暴風を送り、これがためやむなくシードーンに寄港した。アレクサンドロスは追跡されないように用心して、フェニキアとキュプロスに長い間日を送った。しかし一説によれば、ヘレネーはゼウスの意によってヘルメースが盗み出し、エジプトに連れて行ってエジプト王プローテウスに保護するように渡され、アレクサンドロスは雲より造られたヘレネーの似姿を持ってトロイアーに赴いたということである159

 S(メネラーオスは奪われたことを知って、ミュケーナイのアガメムノーンの所に来り、トロイアーへの軍を集め、ギリシアを召集することを求めた。アガメムノーンはそれで諸王に使いを遣わし、彼らが誓った誓言を思い出さしめ、ギリシアに対するこの侮辱はすべての者に共通であると言って、各人が自分の妻の安全を計るようにと勧告した。多くの者が出征に熱心であった。そしてある者がイタケーのオデュセウスの所に赴いた。)

しかし、彼は出征を欲せず、狂気を装った。しかし、ナウプリオスの子パラメーデースはその狂気を偽りであることを証した。そして狂気を装っているオデュセウスの後をつけ、ペーネロペーの懐よりテーレマコスを奪って、殺すかのごとく剣を抜いた。オデュセウスは子供のことを心配して、偽りの狂気であることを白状して軍に従った。(ブルフィンチ完訳『ギリシャ・ローマ神話』上下合本版相互参照

 オデュセウスは一人のプリュギアー人を捕虜とし、プリアモスよりパラメーデースに送られたかのごとくに裏切りの手紙を書かしめた。そしてパラメーデースのテントの内に金を埋め、この手紙を陣営の中に落とした。アガメムノーンがこれを読んで、かの金を発見し、パラメーデースを裏切者として味方の者に石で打ち殺すように渡した。

 メネラーオスはオデュセウスとタルテュビオスとともにキュプロスの(キニュラース160)の所に来て、味方になるように説いた。キニュラースはその場にいないアガメムノーンに胸甲を贈物とし、五十隻の船を送ることを誓ったが、ミュグダリオーンの子を船長とする一隻を送ったのみで、残りは土でこしらえあげて海に出した。

 アポローンの子アニオスの娘たちエライス、スペルモー、オイノーは「葡萄酒つくり」と呼ばれている。ディオニューソスが彼女らに地よりオリーブ油、穀物、葡萄酒をつくり出す力を与えたのである。

P208  S(軍はアウリスに集結した。トロイアー遠征に加わった者は次のごとくであった。ボイオーティアー人の将は十人、彼らは四十隻の船をもたらした。オルコメノス人の将は四人、三十隻の船をもたらした。ポーキス人の将は四人、彼らは四十隻の船をもたらした。ロクリス人の将はオイレウスの子アイアース、四十隻をもたらした。エウボイア人の将はカルコードーンとアルキュオネーの子エレペーノール、四十隻をもたらした。アテーナイ人の将はメネステウス、五十隻をもたらした。サラミース人の将はテラモーンの子アイアース、十二隻をもたらした。アルゴス人の将はテューデウスの子ディオメーデースおよびその伴侶であって、八十隻をもたらした。ミュケーナイ人の将はアトレウスとアーエロペーの子アガメムノーンで、百隻。ラケダイモーン人の将はアトレウスとアーエロペーの子メネラーオス、六十隻。ピュロス人の将はネーレウスとクローリスの子ネストール、四十隻。アルカディアー人の将はアガペーノール、七隻。エーリス人の将はアムピマコスおよびその伴侶で、四十隻。ドゥーリキオン人の将はピューレウスの子メゲースで、四十隻。ケパレーニアー人の将はラーエルテースとアンティクレイアの子オデュセウスで、十二隻。アイトリアー人の将はアンドライモーンとゴルゲーの子トアースで、四十隻をもたらした。クレータ人の将はデウカリオーンの子イードメネウスで四十隻。

P209 ロドス人の将はヘーラクレースとアステュオケーの子トレーポレモスで、九隻。シューメー人の将はカロポスの子二ーレウスで、三隻。コース人の将はテッサロの子ペイディッポスとアンティポスで、三十隻。ミュルミドーン人の将はペーレウスとテティスの子アキレウスで、五十隻。ピュラケーよりはイーピクロスの子プローテシラーオス、四十隻。ペライの将はアドメートスの子エウメーロス、十一隻。オリゾーン人の将はポイアースの子ピロクテーテースで七隻。アイニアーニアー人の将はオーキュトスの子グーネウスで、二十二隻。トリッケー人の将は(アスクレーピオスの子)ポダレイリオス(とマカーオーン161)、三十隻。オルメニオン人の将は(エウアイモーンの子162)エウリュピュロス、四十隻。ギュルトン人の将はペイリトゥースの子ポリュポイテース、三十隻。マグネーシアー人の将はテントレドーンの子プロトオス、四十隻。船はすべてで一千と十三隻、将は四十三人、司令は三十であった。)

 軍がアウリスにあって、アポローンに犠牲が捧げられ時に、祭壇より大蛇が近くにあった鈴懸けの木に進み寄った。水の中には巣があったが、その中にいた八羽の雀を九番目に母鳥もろとも食いつくして、石と化した。カルカースはこの徴はゼウスの意によって彼らに与えられたものであると言って、この事件より推して十年の内にトロイアーは攻略

P210 される運命にありと言った。S(そしてトロイアーへの航海への準備をした。)アガメムノーンは全軍の司令官であり、アキレウスは十五歳で海軍の指導をした。

 しかし彼らはトロイアーへの航路を知らずに、ミューシアーに寄港し、これをトロイアーであると思って荒らした。ヘーラクレースの子テーレポスはミューシアーの王であって、自分の国が略奪されているのを見て、ミューシアー人を武装させ、ギリシア人を船まで一団となって追い、多くの者を殺した。その中に、後に残って防いだポリュネイケースの子テルサンドロスもあった。しかしアキレウスがテーレポスにむかって突進して来た時、これに堪えず、追いかけられた。そして追われるうちに葡萄の木の枝にからまれて、槍で腿に傷つけられた。ミューシアーを去ってギリシア人は海に出た。そして激しい暴風が襲い来り、互いにちりぢりとなって自分の国に帰って来た。かくてギリシア人はその時帰国し、戦いは二十年間続いたと言われる。というのは、ヘレネーの掠奪の後二年目にギリシア人は準備を終わって出征し、ミューシアーよりギリシアに帰国して八年後に再びアルゴスに帰って後、アウリスに赴いたからである。

 上述の八年後に再び彼らがアルゴスに集まった時に、トロイアーへの道を示し得る案内者がなかったので、いかに航海すべきかについて大いに当惑した。しかし、テーレポスが、

P211 彼の傷が治癒せず、アポローンが彼に傷つけた者が医となった時に癒されであろう、と言ったので、襤褸を身に纏ってミューシアーよりアルゴスに来り、アキレウスに乞い、トロイアーへの航路を教える約束をした。そしてぺーリオン山の梣の槍の錆をアキレウスが拭い取った時に、彼は治った。そこで治癒した時に航路を教えた。カルカースは自分自身の占いの術によって示された事柄の正確さを保証した。

 彼はなアルゴスより海に出、再びアウリスに赴いた時に、艦隊は無風によって立往生となった。カルカースはアガメムノーンの娘のうち最も美しさの優ったものをアルテミスに生贄に供するにあらざれば彼らは航海することはできない。というのは女神は、アガメムノーンが鹿を射て、「アルテミスでさえも、(⁼こうは行くまい)」と言い、かつアトレウスが黄金の仔羊を彼女に犠牲を捧げなかったために、アガメムノーンに対して憤っているからである、と言った。この予言があった時、アガメムノーンはクリュタイムネーストラーにオデュセウスとタルテュピオスとを派し、イーピゲネイアをアキレウスにその軍務の賞として与える約束をしたと言って、彼女を求めた。(クリュタイムネーストラーが彼女を送った時に、アガメムノーンは祭壇の傍らに立たせて殺そうとした)が、アルテミスは彼女の代わりに鹿を祭壇の傍らにおき、彼女を掠ってタウロス人の国に連れて行き、

P212 自分の神官とした。S(しかし一説によればアルテミスは彼女を不死としたという。)

 彼らはアウリスより船出して、テネドスにたち寄った。この島をキュクノスとプロクレイアの子テネースが支配していた。しかし一説には、彼はアポローンの子と言われる。彼は父に追放せられてここに住んでいたのである。というのはキュクノスはラーオメドーンの娘プロクレイアより一子テネースと一女ヘーミテアーを得たが、後トラガソスの娘ピロノメーを娶った。この女はテネースに恋し、彼を説き落とすことができなかったので、キュクノスには彼が手を出したと偽りの訴えをなし、その証人にその名をエウモルポスという笛吹きを差し出した。キュクノスはこれを信じて、彼を姉妹ととに箱に入れて海に放った。箱がレウコプリュス島に漂着した時、テネースは上陸してこの島に居を構え、自分の名をとってテネドスと呼んだ。キュクノスは後真実を知って、笛吹きを石で打って殺し、妻を地中に生き埋めにした。

 テオドスにむかって航し来るギリシア人をテネースは見て、石を投じて遠ざけんとしたが、テティスがアキレウスにテネースを殺すな、もしテネースを殺せば彼自身アポローンの手にかかって死ぬであろうから、と前もって注意しておいたにもかかわらず、彼はアキレウスによって胸を刀でうたれて死んだ。彼らがアポローンに犠牲を捧げている時に、

P213 祭壇より水蛇ヒュドラーが近づいて来てピロクテーテースを噛んだ。その傷が治らず、不快な臭気を放ち、軍はその臭気にたまりかねたので、アガメムノーンの命によりオデュセウスは彼をその所有するヘーラクレースの弓とともにレームノスに棄てた。彼はそこで島を射ってその荒地で食を獲ていた。

 テネドスより出帆してトロイアーに向かい、オデュセウスとメネラーオスをヘレネーと財宝との返還要求の使者にたてた。トロイアー人の間で会議が招集せられた時、彼らはヘレネーを返還しないのみか、死者をも殺そうとした。しかし彼らをアンテーノールが救った。一方うギリシア人は夷狄の無礼を憤って、武装し、彼らに向かって航した。テティスはアキレウスに命じた。最初に船より上陸するな、というのは最初に上陸した者は最初に死ぬであろうから、と。S(夷狄たちは艦隊のむかって来るのを認めて、武装して海に突進し、石を投じて上陸を防がんとした。)ギリシア人中第一にプローテシラーオスが船より上陸し、少なからぬ夷狄を殺した時、ヘクトールの手にかかって殪れた。彼の妻ラーオダメイアは、その死後も彼を愛し、プローテシラーオスによく似た像を作って、これと交わった。神々が憐れに思い、ヘルメースはプローテシラーオスを冥府より連れ戻した。ラーオダメイアは彼を見、トロイアーより帰ったものと考えてその時は喜んだが、再び

P214 冥府につれ戻された時、自害した。

 S(プローテシラーオスの死後、ミュルミドーンたちとともにアキレウスが上陸し、キュクノスの頭に石を投げつけて殺した。彼が死骸となったのを見て夷狄たちは市内へ逃げ込み、ギリシア人らは船より飛び出して、平原を死体でみたした。そしてトロイアー人を閉じ込めて城攻めにした。そして船を陸に引きあげた。夷狄たちが恐れて出て来ないので、アキレウスはテュムブレーノアポローンの神城でトローイロスを待伏せして殺し、夜、市に赴いてリュカーオーンを捕えた。またアキレウスは数名の将を連れてこの地を荒し、アイネイアースとプリアモスの牝牛を取る目的でイーデーに赴いた。アイネイアースが逃げたので、牛飼いたちとプリアモスの子メーストールを殺し、牛を追いたてた。またレスボスとポーカイア、次にコロポーン、スミュルナ、クラゾメナイ、キューメー、ついでアイギアロスとテーノス、すなわちいわゆる百の町を攻略した。ついで順々にアドラミューティオンとシーデー、ついでエンディオン、リナイオン、コローネー。また彼はテーバイ、ヒュポブラキアイ、リュルネーソス、(アンタ)ンドロス、その他多くの町を攻略した。

P215 九年が過ぎ去った時にトロイアー人に味方が到着した。周囲の町々より、ダルダニアー人の将、アンキーセースの子アイネイアースおよび彼とともにアンテーノールとテアーノーの子アルケロコスとアカマース、(略、武将たちの列挙)

第四章 「イーリアス」
  アキレウスは神官クリューセースの娘ブリーセーイスが原因で憤り、戦に出なかった。それゆえに夷狄たちは力を得て市よりうって出た。そしてアレクサンドロスはメネラーオスと一騎打をし、アレクサンドロスの旗色が悪かった時にアプロディーテーが彼を奪って行った。そしてパンダロスはメネラーオスを射て休戦の誓いを破った。

P216  ディオメーデースは勇ましく戦ってアイネイアースを助けに来たアプロディーテーを傷つけ、グラコウスと出会って父の友誼を思い起こし、武具を交換した。ヘクトールが最も優れた者と一騎打ちの勝負をせんと挑んだ時、多くの者が出たが、アイアースが籤を引きあてた、勇戦した163。しかし夜となったので伝令が彼らを引き分けた。

 S(ギリシア人は碇泊地を護るべく壁と堀を作り、平地で戦闘が起こった時にトロイアー人はギリシア人を壁の内に追い込んだ。)ギリシア人はアキレウスの所へ使者としてオデュセウス、ポイニクス、アイアースを、彼らと力を合わせて戦うことを乞い、またブリーセーイスとそのほかの賜物を約束するように送った。夜になってオデュセウスとディオメーデースを偵察に出した。彼らはエウメーロスの子ドローンとトラーキア人レーソス---彼はその前日トロイアー人の味方として到着し、まだ戦闘に加わっていなかったので、トロイアーの軍勢より離れて、ヘクトールとは別に人を構えていた---および彼の周囲に眠っている十二人を殺し、その馬を船に引いて行った。日中に激しい戦闘となり、アガメムノーン、ディオメーデース、オデュセウス、エウリュピュロス、マカーオーンは負傷し、ギリシア方が敗走した時、ヘクトールは壁を破って入り、アイアースが後退したので、火を船に放った。

P217 アキレウスはプローテシラーオスの船の燃えているのを見た時、パトロクロスに自分の武具に身をかためさせ、馬を与えて、ミュルミドーンたちとともに彼を送り出した。トロイアー人は彼を見てアキレウスと思い、敗走しだした。彼らを城壁内に追い、多くの者を殺したが、その中にゼウスの子サルペードーンもあった。そして最初にエウポルボスに傷つけられた後、ヘクトールに討ちとられた。彼の死骸を争って激しい戦闘が生じ、アイアースは勇戦の結果ようやくのことに死体を救った。アキレウスは怒りを捨て、ブリーセーイスを手に入れた。ヘーパイストスより彼に武具一式がもたらされ、これに身をかためて彼は戦いにうって出て、スカマンドロス河へとトロイアー人を追い、そこで多くの者を殺したが、またアクシオス河の子ぺーレゴーンの子アステロパイオスを討ち取った。そして河神は憤怒してアキレウスを襲った。しかしヘーパイストスは大いなる火で迫った後その河床でを干しあがらしめ、アキレウスは一騎打ちでヘクトールを殪し、彼の踵を自分の戦車に結びつけ、彼を引きずりつつ船に行った。そしてパトロクロスを葬った後、彼を祭る競技を行ない、そこで戦車競走でディオメーデース、拳闘でエペイオス、相撲でアイアースとオデュセウスが勝利を獲た。しかし競技の後プリアモスはアキレスのもとへ来ってヘクトールの死体を贖い、葬った。

第五章 「イーリアス」以後のトロイアー物語
P218
  オトレーレーとアレースの娘ペンテシレイアは誤ってヒッポリュテーを殺し、プリアモスに罪を潔められたが、戦いが起こるや多くの者を討ちとった。その中にはマカーオーンもあった。ついでの地アキレウスに討たれたが、彼は彼女の死後このアマゾーンに恋し、彼を嘲ったテルシーテースを殺した。

 ヒッポリュテーはヒッポリュトスの母であったが、彼女はまたグラウケーおよびメラニッペーとも呼ばれた。彼女はパイドラーの結婚が行われている時武装して自分のアマゾーンたちとともにたち現れて、集ったテーセウスの客人たちを殺すと言った。そこで戦闘が生じ、彼女は死んだ。或いは誤って戦友のペンテシレイアの、或いはテーセウスの手にかかって死んだとも、或いはテーセウスの仲間たちがアマゾーンの襲撃を見て急ぎ扉を閉じ、彼女を屋内に捕らえて殺したからとも言われる164(前述)。

 ティートーノスと曙エーオースの子メムノーンはエティオピアの大軍とともにギリシア軍の敵としてトロイアーに来り、アンティロコスをも含めて多くのギリシア人を殺したが、彼をアキレウスが討ちとった。そしてトロイアー人を追跡してアキレウスはスカイアイ門のそばでアレクサンドロスとアポローンに踵を射られた。彼の死骸をめぐって戦闘が起こり、アイアースはグラコウスを殪し、武具を船に運ぶように手渡したが、

P219 オデュセウスが攻め寄せる者どもと闘っている間に、身体をばアイアースは担ぎあげて、敵の唯中を矢をあびつつ運んで行った。S(アキレウスが死んだので軍は困難にみたされた。)彼らはアキレウスをパトロクロスとともに、二人の骨を混合した後、「白島」に葬った。死後アキレウスは「至福の人々の島」においてメーデイアと同棲していると言われる。S(彼らは彼を弔うために競技を行ない、そこでエウメーロスは戦車に、ディオメーデースは競走に、アイアースは円盤に、テウクロスは弓術に勝った。彼の武具一式は最上の勇者に勝利の賞として提せられた。そしてアイアースとオデュセウスとが競いに出た。S(トロイアーたち、また一説には同盟軍の人々の審判によって)オデュセウスが選ばれた。アイアースは無念のあまり取り乱して、夜間に軍を襲わんとした。アテーナーが彼を狂わしめ、彼をして刀を手に家畜の群れにむかわしめた。彼は狂って牧者とともに家畜をアカイア人と思って殺した。後で正気にかえって、自らをも害して死んだ。アガメムノーンは彼の死体を焼くことを禁じた。それでイーリオンで死んだ者のうち彼のみが棺に収められた。その墓はロイテイオンにある。

 すでに戦いが十年におよび、気を落としているギリシア人にカルケースは予言して、ヘーラクレースの弓を味方にするにあらずんばトロイアーは陥れることは得ないと言った。

P220 これを聞いてオデュセウスはディオメーデースとともにレームノスのピロクテーテースの所に来り、策略で以て弓を手に入れ、彼にトロイアーに航するように説いた。そこでピロクテーテースは来って、ポダレイリオスの手で治癒され、アレクサンドロスを射た。彼の死後ヘレネーの結婚に関してヘレノスとデーイポボスが争った。デーイポボスが選ばれたので、ヘレノスはトロイアーを去ってイーデーで暮らした。カルカースがヘレノスは市を保護している神託を知っていると言ったので、オデュセウスは彼を待伏せし、捕らえて陣営にひいて行った。そしてヘレノスはやむなくイーリオン攻略の方法を話した。その条件は、第一はペロプスの骨が彼らのもとに持ち来られたら、第二はもしネオプトレモスが彼らの味方となって戦ったら、第三はもし空より降ったパラディオンが盗み出されたら、というのはこれが市中にあるかぎり市は陥落しないというのであった。

 これを聞いてギリシア人はペロプスの骨をば取り寄せ、オデュセウスとポイニクスをスキューロスのリュコメーデースの所に派し、彼らは(彼らに165)ネオプトレモスを行かせるように説いた。彼は陣営に来り、父の武器を喜んで与えるオデュセウスより受取って、多くのトロイアー人を殪した。後テーレポスの子エウリュピュロスがトロイアー人の味方としてミューシアーの大軍を連れて来た。彼は勇戦したが、ネオプトレモスは彼を討ちとった。

P221 オデュセウスはディオメーデースとともに夜の間に市に赴き、ディオメーデースをその場に留め、自分はその身を損い、貧しい服装で人知れず市に乞食となって入った。そしてヘレネーに認められ、その手引きによってパラディオンを盗み、多くの番人を殺した後、ディオメーデースとともに船へ持って行った。

 のちの木馬の建造を思いついて、工匠のエペイオスにその考えを示した。彼はイーデー山より木を切り出し、両端に開きのある空洞をの馬を造った。この内にオデュセウスは五十人の、「小イーリアス166」の著者によれば三百人の、勇者に入るように、他の者は夜になると幕営を焼き、海に出て、テオドスの沖合に碇泊し、次の夜の来るとともに帰航するように説いた。彼らはこれに従い、オデュセウスをその長とし、「故郷への帰還の感謝の捧物としてギリシア人アテーナーにこれを捧ぐ」ということを示す文字を彫りつけ、勇者を馬に入らしめた。そして彼ら自身は幕営を焼き、烽火を挙げて彼らに報ずるためにシノーンを後に残して夜間出航し、テネドス沖に泊していた。

 夜が明けてトロイアー人たちはギリシアの陣営に人影がないのを見、彼らが逃げたと考えて大いに喜び、木馬を引き、プリアモスの宮殿の傍らに立て、いかにすべきかを議した。カッサンドラーがその内部に武装の勢があると言い、さらに予言者のラーオコーンも

P222 そう言ったので、一部の者は焼き払うべし、一部の者は断崖より投ずべしと言った。しかし大部分の者はこれを神への奉献物としてそのままにおくべきであると考えたので、犠牲に取りかかり、宴を張らんとした。しかしアポローンは彼らに徴を送った。というのは、二匹の大蛇が海を渡って近くの島よリ泳ぎ来り、ラーオコーンの二人を食ってしまったからである。夜となってすべての者が眠りについた時、ギリシア人はテネドスより航し来り、シノーンはアキレウスの墳墓より烽火をあげた。ヘレネーは馬の廻りを廻って、将たちをおのおのの妻の声をまねて呼んだ。アンティクロスがこれに答えんとした時オデュセウスはその口を押えた。そして敵が眠ったと思うころに馬を開いて、武器を携えて外に出た。そして最初にポルテウスの子エキーオーンが飛び降りて死んだが、他の者たちは縄に身を託して降り、城壁上に至り、門を開いてテネドスより来って上陸した者どもを迎えた。そして武器を携えて市中に進み、家々に入って眠っている人々を討ちとった。ネオプトレモスは「内庭のゼウス」の祭壇に遁れて救いを求めたプリアモスを討ちとった。オデュセウスとメネラーオスは家の中に逃げたアンテーノールの子グラコウスを認めて武力によりこれを助けた。アイネイアースは父アンキーセースを担いで遁れたが、ギリシア人たちは彼の敬虔心のゆえに許した。メネラーオスはデーイポボスを殺した後ヘレネーを船へ連れて行った。

P223 テーセウスの母アイトラーもまたテーセウスの子デーモポーンとアカマースが連れ去った。というのは彼らは後トロイアーに赴いたといわれているからである。ロクリスのアイアースはアテーナーの木像に抱きついているカッサンドラーを見てこれを犯した。この木像が空の方をむいているのはこのためであるということである。

 トロイアー人を殺したのち市に火を放ち、戦利品を分配した。そしてよろずの神々に犠牲を捧げた後、アステュアナクスを塔より投じ、ポリュクセネーをアキレウスの墓上で屠殺した。特別の賞としてアガメムノーンはカッサンドラー、ネオプトレモスはアンドロマケー、オデュセウスはへカベーを得た。一説にはヘレノスがへカベーを得て彼女とともにケルソネーソスに渡り、牝犬となった彼女を今日「犬の墓キュノスセーマ」と呼ばれている所に葬ったといわれる。プリアモスの娘の中ですぐれて美貌であったラーオディケーを、すべての者の目前で大地が開いて隠してしまった。S(トロイアーを破壊して船出せんとしている時に、カルカースがアイアースの不敬のためにアテーナーが怒っていると言って彼らを引き留めた。)彼らはアイアースを不敬のゆえに殺さんとしたが、祭壇に遁れたので、そのままにしておいた。

第六章 帰還物語(ノストイ)
  S(その後彼らは相会し、メネラーオスは航し去るべしと言い、アガメムノーンは
P224 留まってアテーナーに犠牲を捧ぐべしと言って、アガメムノーンとメネラーオスは争った。)ディオメーデース、ネストール、メネラーオスはともに海に出たが、前二者はS(航海が都合よく行ったのに、)メネラーオスは嵐に襲われ、他の船を失った後、五隻とともにエジプトに着いた。

 アムピロコスとカルカースとレオンテウスとポダレイリオスとポリュポイテースは、イーリオンで船を捨てて陸路コロポーンにむかって進み、そこで予言者カルカースを葬った。というのは、自分よりも賢い予言者に出遇ったならば彼は死ぬであろうという予言がカルカースにあったからだ。さて彼らはアポローンとマントーの子たる予言者モプソスの家に招じられたが、このモプソスとカルカースと予言の技を争った。そして野生の無花果の木が立っていて、カルカースが「それは実をいくつ持っているか」と訊いた時に、モプソスは「一万と一メディムノス(⁼「五二・五三立つとそのうえに一つ」)」と答えた。そしてそのとおりであった。そこでモプソスが、一頭の孕んでいる牝豚がいたので、カルカースに「何匹腹の中に子豚を持っているか、そしていつ生むのか」と尋ねた。カルカースが何も言わなかった時に、彼自身牝豚が十匹の子豚を持っており、その中の一匹は雄であり、明日生むであろう、と言った167。そしてそのとおりになった時、カルカースは気落ちして死んだ。S(そしてノティオンに葬られた。

P225 アガメムノーンは犠牲を捧げた後出帆してテネドスにたち寄った。テティスが来ってネオプトレモスに二日間と留まって犠牲を捧げるように説き、彼は留まった。しかし他の者は出帆してテーノス付近で嵐に遭遇した。そして多くの船が海底に沈んだ。)

 アテーナーはアイアースの船に雷霆を投げつけたが、彼は船が破壊されると、とある岩へたどりついて、女神の意志ににもかかわらず救われたと言った。しかしポセイドーンが三叉の戟で岩を打って引き裂き、彼は海中に落ちて死んだ。そしてテティスが漂着した彼をミュコノスに葬った。

 他の者たちが夜の中にエウポイアに流された時に、ナウプリオスがカペーレウス山上に烽火を上げた。彼はこれを一部の助かった者たちであると考えて、陸にむかい、カペーリダイ岩礁で難破し、多くの者が死んだ。というのは、ナウプリオスとカトレウスの娘クリュメネーの息子パラメーデースがオデュセウスの奸計によって石で打たれて死んだからである(前出・摘要・三・八を見よ参照)。これを知ってナウプリオスはギリシア人の所に航し、わが子の償いを求めた。しかしすべての者がオデュセウスのパラメーデース殺害の仲間であるアガメムノーンの味方をしたので、なすことなくして帰り来り、ギリシア各地を航して、

P226 ギリシア人の妻が姦通するように仕組んだ。クリュタイムネーストラーはアイギストスと、アイギアレイアはステネロスの子コメーテースと、イードメネウスの妻メーダーはレウコスと。レウコスは彼女を神殿に遁れて助けを乞うたその娘クレイシテュラーとともに殺し、クレータより十市を引き離してその僭主となった。そしてトロイアー戦争の後クレータに上陸したイードメネウスをも追い払った。ナウプリオスはこれらのことを前にやっておいた後に、ギリシア人の帰国を知って、今はクシュロパゴス(⁼「材木食い」)と呼ばれているカペーレウス山に烽火をあげたのである。そこでギリシア人らは港であると思って近づき、破滅に陥ったのである。

 ネオプトレモスはテティスの勧めによって二日の間テネドスに留まった後、ヘレノスとともにモロッソス人の国に陸路旅だち、途中で死んだポイニクスを葬り、モロッソス人と闘ってこれを敗り、王となって君臨し、アンドロマケーの腹よりモロッソスを生んだ。一方ヘレノスはモロシアーに一市を建て、居を構え、ネオプトレモスは彼に妻として自分の母デーイダメイアを与えた。ペーレウスがアカストスの子供らのためにプティーアーより追われて死んだ時に、ネオプトレモスは父の王国を継承した。そしてオレステースが発狂した時、トロイアーにおいて先に彼に約束されていたオレステースの妻ヘルミオネーを奪い、

P227 このためにデルポイにおいてオレステースに殺された。しかし一説には彼は父の死に対する責任をアポローンに問うためにデルポイに来り、奉納品を掠奪し、神殿に放火し、そのためにポーキス人マカイレウスに殺されたという。

 ギリシア人らは漂流ののち各人各様に異なる地に着いて居住した。ある者はリビアに、ある者はイタリアに、他の者はシシリに、ある者はイベリア付近の島に、また他の者はサンガリオス河岸に、またキュプロスに住みついた者もあった。S(カペーレウスで難破した者は、それぞれあちらこちらへと漂流した。グーネウスはリビアへ、テッサロスの子アンティポスはペラスゴイ人の国へ行き、その地をわがものとしてテッサリアーと呼んだ。またピロクテーテースはイタリアのカムパーニア人の国に、ペイディッポスはコース人らとともにアンドロスに巨を占め、アガペーノールはキュプロスに、また他の者は他の地にそれぞれ落着いた168。)

 デーモポーンは僅かの船とともにトラーキアのビサルタイ人の国に着いた。そしてその王の娘ピュリスは彼に恋し、王国を持参金として、父によって彼と妻わされた。しかし彼は祖国に立ち去りたく欲し、たびたび頼んだり帰還を誓ったりしたあげく、たち去った。そしてピュリスは彼を「九つの路」と呼ばれる所まで見送って、母神レアーの聖物が納め

P228 られている箱を、彼女のもとに帰る望みを失った時が来るまではそれを開いてはならないと言って、彼に与えた。デーモポーンはキュプロスに赴いてそこに住んだ。そして約束の時が過ぎ去った時、ピュリスはデーモポーンに呪いをかけて自害した。デーモポーンがその箱を開くと、恐怖に襲われて馬に乗った。そしてこれをむやみに駆りたてて死んだ。というのは馬が躓いた時に彼は投げ出されて、自分の刀の上に落ちたからである。しかし彼の部下たちはキュプロスに落着いた。

 ポダレイリオスはデルポイについて、どこに居住すべきかを神に問うた。そして、取り巻く空が落ちてもなんらの害を蒙らない市に住むべしとの神託を与えられたので、カーリアーのケルソネーソスの、その周囲の空を山で囲まれた所に居を占めた。

 アルクマイオーンの子アムピロコスは、一説によれば後トロイアーに来り、嵐の中にモプソスの所に吹き流されたという。一説にはその王国を争って一騎打ちの間に相討ちとなったという。

 ロクリス人たちはやっとのことで自分の国に帰ったが、三年後に疫病がロクリスを襲った時に、彼らはイーリオンのアテーナーを宥め、二人の処女を千年の間歎願者として送るべしという神託をうけた。そして最初の籤をぺリボイアとクレオパトラーが引いた。

P229 彼女らがトロイアーに来た時、その他の者に追いかけられて神城内に逃げ込んだ。そして彼女らは女神に近づかず、聖域を掃き、水を撒いた。そして神殿の外に出ず、髪を切り、一枚の着物に、履物なしでいた。そして最初の処女たちが死ぬと他の者を送った。そして神城から外に出ているところを見つけられて殺されないように、夜間に市に入った。しかし後には赤児を乳母とともに送った。千年が経って、ポーキス人との戦い169の後に歎願者を送るのをやめた。

 アガメムノーンはカッサンドラーとともにミュケーナイに帰って、アイギストスとクリュタイムネーストラーに殺された。というのは彼女は彼に袖も頸もない下着を手渡し、彼がこれを着ようとしている間に殺害し、アイギストスがミュケーナイ王となって支配したからである。彼らはカッサンドラーをも殺した。アガメムノーンの娘の一人エーレクトラーは弟のオレステースを盗み出し、ポーキス人ストロピオスに育てるように手渡した。彼はオレステースを自分の子ピュラデースとともに育てあげた。成人してオレステースはデルポイに赴き、父を殺した者たちに復讐すべきかどうかを神に問うた。神がこれを許したので、ピュラデースとともにミュケーナイにむかって出立し、自分の母とアイギストスを殺し、後暫くして狂気に襲われ、エリーニュスたちに追われつつアテーナイに来り、

P230 アレースの丘において裁判をうけた。S(一説によればエリーニュスたちによって、また一説によればテュンダレオースによって、また一説によればアイギストスとクリュタイムネーストラーの娘エーリゴネーによって訴えられたということである。そして裁判で投票が同数であったので、彼は無罪となった。)

 病を脱する方法を問うたところ、神は彼にタウロス人の国にある木像を持って来たならば、と言った。S(タウロス人の国はスキュティアー人の地の一部であって、彼らは外国人を殺し、聖(火170)に投入するのであった。これは聖域内にあり、ある岩を通って地獄より迸り出ているのである。)そこでS(オレステースは)ピュラデースとともにタウロス人の国に来り、見つけられて捕らえられ、縛られてトアース王の所へ連れていかれた。彼は両人を女の神官の所へ送った。S(しかしタウロスの地において聖職についていた)姉に認知せられ、木像をとって彼女とともに逃げた。S(それはアテーナイにもたらされ、今ではタウロポロスのアルテミス像と言われている。しかし一説には嵐の裡にロドス島へ吹きつけられ171、…信託によって城内へ奉納せられたという。)そしてミュケーナイに来てピュラデースと姉エーレクトラーとを結婚させ、自分はヘルミオネー、或いは一説には、エーリゴネーを娶り、S(ティーサメノスを)得、アルカディアーのオレステイアにおいて蛇に噛まれて死んだ172

P231 メネラーオスはすべてで五隻の船を持って、S(アッティカのスーニオン岬にたち寄ったが、そこから再びクレータに風で吹きやられ、遠く押し流された。そしてリビア、フェニキア、キュプロス、エジプトをさまよい歩いて173、)多くの財宝を集めた。そして一説によればエジプト人の王プローテウスの所でヘレネーが見出された。それまではメネラーオスは雲から作ったまぼろしを持っていたのであった。八年の放浪の後にミュケーナイに寄港し、そこで父の死の復讐を終わったオレステースに出遇った。そしてスパルタに来て自分の王国を手に入れた。そして174S(ヘーラーによって不死とせられたヘレネーとともにエーリュシオンの野に行った)。

第七章 「オデュセイア」とその後日譚
P232   オデュセウスは、一説によればリビアを、また一説にはシシリ、また一説にはオーケアノスの海、一説にはテュレーニア海をさまよったという。

 イーリオンより船出して、キコーン人の市イスマロスに寄港し、戦ってこれを攻略し、掠奪し、唯一人アポローンの神官マローンのみを許した。大陸に住んでいるキコーン人がこれを知って、武装して彼にむかって来た。彼は各船より六人を失って海に逃げた。そして「食蓮人ロートパゴイ」の地に来り、この地の住人がいかなるものかを調べに数名の者を派した。 P234 しかるに彼らはこれを食って、そこに留まった。というのは、この地には蓮ロートスと呼ぶ甘い果物がなっていて、これを味わった者をして万事を忘れしめるからである。オデュセウスはこれを知って、残りの者を留め、味わったものを力ずくで船に連れ来り、キュクロープスたちの国にむかって航海し、これに近づいた。

 他の船を近くの島に残し、一隻のみをひきいてキュクロープス人の地に近づき、十二人の伴侶とともに下船した。海の近くに一つの洞穴があり、その内へマローンに与えられた酒の袋を持って入った。それはポリュペーモスの洞穴であった。彼はポセイドーンとニムフのトオーサの子であって、巨大な野蛮な、額に一眼を持った人食い男であった。彼らは火をもやし、仔山羊を犠牲に供して宴を張った。しかしかのキュクロープスがやって来て、羊を追い入れると、巨大な岩を扉にあてがい、彼らを見てその二三人を食ってしまった。オデュセウスはマローンの酒を飲むように彼に与えた。彼は飲んで再び要求し、二度目に飲んだ時に彼の名を尋ねた。彼が「誰でもないウーテイス」であると言うと、キュクロープスは「誰でもないウーテウス」を後にし、ほかの者を先に食べると嚇し、これを彼に対して友情の徴として与えると約束した。そして酔い潰れて眠った。オデュセウスはそこにあった棍棒を見つけ、四人の仲間とともにそれをとがらせ、火で焼いて、彼の目を潰した。ポリュペーモス

P233 が周りにいるキュクロープスたちに助けを求めて叫んだ時に、彼らが来て、誰が彼を害したかと尋ね、彼が「誰でもないウーテイス」と言った時、彼らは彼が「誰に害されたのでもない」と言っているのだと思ってたちのいた。そして羊がいつもの牧場を求めた時に、扉を開き、戸口に立って手を延ばし、羊を手で触った。オデュセウスは三匹の牝羊を一緒につないで175…自分は大きいほうの下に入り込み、腹の下に隠れて羊とともに外へ出た。そして仲間を羊から解き、船に羊を追い行き、船でたち去るにあたって、彼がオデュセウスであり、彼の手を遁れたとキュクロープスにむかって怒鳴った。キュクロープスには彼がオデュセウスによって盲目にされるという予言が予言者によって与えられていた。そしてその名を知った時、彼は岩を引きちぎって海に投げ込み、船は危うく岩を避けて事なきを得た。これ以来ポセイドーンはオデュセウスに憤怒を抱いた。

 すべての(船と176)とともに出航して、アイオリアーの島についた。その王はアイオロスであった。彼はゼウスによって風の司に任ぜられ、鎮めるも起こすも任せられていた。彼はオデュセウスを歓迎し、彼にその中にもろもろの風を閉じ込めてある牛の皮袋を、航海にどの風を持ちうべきかを示し、船の中にこれを縛りつけて、与えた。オデュセウスは適当な風を用いてよい航海をし、イタケーの島に近づき、すでに市より立ちあがる煙を見て眠りに落ちた。

P234 仲間の者たちは彼が袋の中に金をもっていると思って、風を解き放ち、その息にさらわれて再び後へ吹き戻された。オデュセウスはアイオロスの所へ来て、護送を得ることを求めたが、アイオロスは神々が反対する時には彼を救うことはできないと言って、島より追い払った。

 そこで海を航してライストリューゴーン人の地に来り、そして…自分の船を一男外に碇泊させた。ライストリューゴーン人は食人であって、その王はアンティパテースであった。住人がいかなる者かを知りたいと思って、オデュセウスは数名の者を偵察にやった。彼らに王の娘が出遇い、彼らを父のもとに導いた。彼はその中の一人をひっつかんで食い、逃げる残りの者を、大声を放ち、他のライストリューゴーン人たちを呼び集めつつおいかけた。彼らは海辺に来り、石を投じて船を破壊し、その乗組員を食った。オデュセウスは船の綱を切って海に出て、他の船は乗組員もろとも破滅した。

 ただ一隻の船とともにアイアイエーの島に寄った。この島には太陽神ヘーリオスとペルセーの娘、アイエーテースの姉妹、あらゆる魔法に通じているキルケーが住んでいた。仲間の者を分けて、自分は籤により船に留まり、エウリュロコスがその数二十二人の仲間とともにキルケーの所に進んだ。彼女が叫ぶとエウリュロコス以外のすべての者は内に入った。

P235 彼女は各人に、大コップをチーズ、蜜、大麦、葡萄酒でみたし、魔法の薬を混ぜて、与えた。彼らがこれを飲むと、杖で彼らに触れ、その姿を変え、ある者は狼、ある者は豚、ある者は驢馬、ある者は獅子にした。エウリュロコスはこれを見て、オデュセウスに報告した。オデュセウスはヘルメースより「モーリュ177」を受けとって、キルケーの所へ行き、彼女の魔薬の中にモーリュを投げ入れ、彼のみは飲んでも魔法にかからなかった。そして刀を抜いてキルケーを殺そうとした。しかし彼女は彼の怒りを宥めて、仲間を元に戻した。そしてオデュセウスは彼女が害をなさないという誓いを得て、床をともにし、彼に一子テーレゴノスが生まれた。一年間そこに留まった後、オーケアノスを航し、キルケーの教えにより死者の霊に血の犠牲を行なってテイレシアースに伺いをたて、そして半神の族の男女の霊を見た。彼はまた母アンティクレイアと、キルケーの家で堕ちて死んだエルペーノールを見た178

 キルケーの所に来て、彼女に送られて海に出て、セイレーンの島を通過した。セイレーンはアケローオスとムーサの一人なるメルポメネーの娘で、ペイシノエー、アグラオペー、テルクシエペイアであった。この中の一人は竪琴を弾じ、一人は唱い、一人は笛を吹き、これによってそこを航し過ぎる船人を留まるように説かんとしたのである。

P236 大腿から下は彼女らは鳥の姿をしていた。これを過ぎる時、オデュセウスはその歌を聞こうと欲して、キルケーの教えにより仲間の者の耳は蝋で塞いだが、自分自身はマストに縛りつけるように命じた。そしてセイレーンたちによって留まるように説かれ、縛めを解いてくれるように頼んだが、仲間の者はなおさら彼を縛り、かくして航し過ぎた。セイレーンは、もし船が航し過ぎることがあれば死ぬという予言があった。かくて彼女らは死んだ。

 この後二つの道に来た。一方には漂い岩が一方には巨大な断崖があった。その中の一つに、クラタイイスとトリエーノス179(?)またはポルコスの娘で、その顔と胸は女で、その脇腹より犬の六頭十二足が生えているスキュラがいた。一方の断崖にはカルブディスがいて、彼女は一日に三度水を吸い込み再び放出するのである。キルケーの教えにより「漂い」岩の航路を避けて、スキュラの断崖を過ぎて航した際に、艣に武装して立った。しかしスキュラが現われ、六人の仲間を掠って彼らを食い尽くした。そこより太陽神ヘーリオスの島トリーナキアーに来た。そこで牝牛が草を食っていたが、彼は風に止められてそこに留まった。しかし仲間の者が食物に窮して牝牛の中の幾頭かを屠殺して宴を張った時に、太陽神ヘーリオスはゼウスに知らせた。そしてゼウスは海に出た彼を雷霆で撃った。船が壊れ、オデュセウスはマストにしがみついてカリュブディスへと来た。カリュブディスがマストを飲み込んだ時に、

P237 頭上に懸かって生えていた野生の無花果をつかんで待っていた。そしてマストが再び投げ上げられたのを見た時に、この上に飛び降り、オーギュギアーの島へ運ばれて行った。

 そこでアトラースの娘カリュプソーが彼を迎え入れ、床をともにして、一子ラティーノスを生んだ。彼女の下に五年留まった。そして筏を造って海に出た。これがポセイドーンの怒りによって海上で破壊せられた後に、裸でバイアーキアー人の地に投げ上げられた。アルキノオス王の娘ナウシカアーは着物を洗っていたが、庇護を乞うた彼をアルキノオスの所に連れて行った。王は彼を歓待し、贈物を与え、彼を護送船とともに祖国に送った。しかしポセイドーンはバイアーキアー人に対し怒り、その船を石と化し、市を山で囲んで隠した。

 オデュセウスは祖国に帰ると自分の家が荒廃しているのを見出した。彼が死んだと思って、ドゥーリキオンよりは五十七人がペーネロペーに求婚していた。すなわち(略、求婚者の列挙) P238
(略、求婚者の列挙、ケラオスである180、アゲノール181、インディオス182
P239 これらの者は宮殿に来って、オデュセウスの家畜を費し、宴を張っていた。ペーネロペーは強いられてラーエルテースのための棺衣ができあがった時に、結婚すると約束し、日中は織り、夜になるとこれを解いて、三年間織っていた。このような方法で見つかるまで求婚者はペーネロペーにあざむかれていた。オデュセウスは家のありさまを知って、乞食となって召使いエウマイオスの所に来り、テーレマコスに自分の正体を示し、市に赴いた。山羊飼いで召使いのメランティオスが彼らに出会って侮辱した。宮殿に至って、求婚者どもに食物を乞うた。そしてイーロスと呼ぶ乞食を見出し、彼と相撲った。彼はエウマイオスとピロイティオスに自分の正体を示し、彼らおよびテーレマコスとともに求婚者に

P240 対する策略を計った。ペーネロペーが求婚者たちにオデュセウスがかつてイーピトスよりもらった弓を持って来て、これを引いた者と結婚すると言った。誰も引き得なかった時に、オデュセウスはこれを受取り、エウマイオス、ピロイティオス、テーレマコスとともに求婚者どもを射殪した。またメランティオスおよび求婚者らとともに寝ていた婢女たちを殺し、妻と父に自分の正体を明かした。

地獄王ハーデス、ペルセポネー、テイレシアースに犠牲を供した後、徒歩でエーペイロスを通ってテスプローティアー人の国に至り、テイレシアースの予言に従って犠牲を捧げてポセイドーンを宥めた。その時テスプローティアーの女王カリディケーは王国を彼に与えて、彼に留まらんことを乞うた。そして彼と交わってポリュポイテースを得た。カリディケーを妻としてテスプローティアー人の王となり、彼に対して軍を進め来った近隣の住民を戦闘で破った。カリディケーの死後、息子に王国を渡してイタケーに来り、ペーネロペーより彼にポリポルテースが生まれていることを知った。テーレゴノスはキルケーより自分がオデュセウスの子であることを聞き、彼を探しに船出した。イタケーの島に来り、その家畜の一部を追い去った。そしてオデュセウスが助けに来たのを手にした(えいの183)脊柱を刃に付けた槍で傷つけ、オデュセウスは死んだ。しかし彼はオデュセウスと知って大いに歎き、

P241 死体(と184)ペーネロペーとをキルケーのもとへ連れて行き、そこでペーネロペーと結婚した。キルケーは彼ら二人を至福の人々の島に送った。

 しかし一説にはアンティノオスに穢されたペーネロペーはオデュセウスに彼女の父イーカリオスの所へ送りやられ、アルカディアーのマンティネイアに行って、ヘウメースによりバーンを生んだと言われる。しかし他説によれば、彼女はアムピノモスのゆえにオデュセウス自身の手にかかって果てたという。というのは、彼女はこの男によって穢されたからである。またオデュセウスは殺された者の親族によって訴えられ、エーペイロス沿岸の島々の王ネオプトレモスを審判官としたが、彼はオデュセウスが除かれればケパレニアーを獲得しえると考え、彼の追放を宣言し、オデュセウスはアイトーリアーの、アンドライモーンの子トアースの所に赴き、その娘を娶り、この女によって得た子供レオントポノスを後に残して老年で死んだという説もある。

ギリシャ神話家系図(まんあげさんtw)


図説 ギリシア・ローマ神話人物記

原初の神々 P0809
オリュンポス神族 P2223
ゼウス/ユピテル P2425
ヘラ/ユノ P2627
ポセイドン/ネプトゥヌス P2829
デメテル/ケレス P030
ヘスティア/ウェスタ P031
アレス/マルス P3233
アテナ/ミネルウァ P3435
アポロン P3637
アルテミス/ディアナ P3839
アプロディテ/ウェヌス P4041
ヘルメス/メルクリウス P042
ヘパイストス P043
ティタン神族系図 P044~047/ P044/ 045/ 046/ 047
グライアイ P049
ゴルゴン P054/055
オリオン P061
プロメテウス P076
テセウスとミノタウロス P092093
カドモス P094095
エウロペ P096
ヒッポリュテ P097
ミノス P098099
ダイダロス P100101
ミノタウロス P102
アリアドネ P103
テセウス P104105
ペルセウス P106/ 108
アンドロメダ P109
ダナエ P110
ベレロポン P111
ヘラクレス/ヘルクレス P112/ P113

星のギリシア神話研究

第5章アテナP032/034(tw)/036
第8章ゼウスP050/ 052/ 054
第9章ヘルクレスP056/ 058/ 060
第10章ケイローンP062/ 064/ 066
第14章ペルセウスP104/106/108