(戦争をやめる時期)という岸の主張は、正しいように思われる。だがまた、東条の信念が、いかに今の時点から見ていかに異様なものに見えたとしても、
当時の国民、そして軍---その戦力をほとんど失いつつあった海軍はともかく、いまだ大陸では圧倒的な優勢を維持していた陸軍---の、一般的な感情として、講和、降伏などは思いもよらない、というのが本当のところだったろう。
昭和天皇は、翌昭和二十(一九四五)年二月の、重臣たちとの懇談のなかで、即時講和と粛軍---東条ら統制派の粛清---を提案した近衛文麿にたいして、今はまだ難しい、もう一度大戦果をあげてからでないと、講和の席に着くことはできない、と語っている。
その点からすれば、岸の議論はいかにも、情理に欠けた、国民感情の現実から遠いものと見えるかもしれないし、より直截に云えば、非現実的だということになるだろう。(GoogleBooks)